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コマルハナバチ(女王)

2012年4月30日

まだ時折,最低気温が1~2度という寒い日があった4月上旬,家の風呂場と倉庫の壁に同じ種類のマルハナバチがとまっていました。
暖かくなって動き出したものの,急に寒くなってうずくまっているという感じです。
今の時期にいるのは,冬を越した女王バチでしょうか。
ずんぐりとした丸っこい体はクマバチに似ていますが,胸部を含め全身を黒い毛が覆い,腹部の先端の毛だけがオレンジ色をしているところが,明らかにクマバチとは異なります。

図鑑で名前を調べたところ,「クロマルハナバチ」か「コマルハナバチ」のどちらかのようです。
しかし図鑑をいろいろ調べても,両種を決定的に判別する方法がなかなか見つかりません。
例えば,北隆館『新訂 原色昆虫大図鑑』(2008年)には,クロマルハナバチの雌について次のように書いてあります。

黒色の密毛に覆われ,尾端3節のみ赤褐毛を有する。毛はオオマルハナバチに比べてはるかに濃色で短く,胸部ではややビロード状。腹背部の毛は強く横臥し,まれに第2背板後縁に不明瞭な白色毛帯を現わす。尾端の赤褐毛はオオマルハナバチより濃色。翅の外縁部も顕著に暗色を帯びる。

コマルハナバチの雌については,次のように書いてあります。

著しく毛色の変化に富み,オオマルハナバチ,クロマルハナバチ,その他の種と混同されやすいが毛は長く,腹背でも横臥することなく,毛先は揃わない。

毛が長い・短いと書かれていても,両者を目の前にして比較するのでなければ,片方だけでは長いのか短いのか判断のしようがなく,確信がもてません。

片山栄助著『マルハナバチ』(2007年)という本に,『マルハナバチの経済学』と『マルハナバチ・ハンドブック』に,日本産マルハナバチの検索表が載っている,とありました。
ところが両書とも入手困難です。
amazonで検索したところ,『マルハナバチの経済学』はなんと84,000円,『マルハナバチ・ハンドブック』は5,500円となっています。
しかも発行部数が少なかったようで,公共図書館でも所蔵しているところが限られています。

所蔵館から取り寄せて,ようやく両書を見ることができました。
ベルンド・ハインリッチ著『マルハナバチの経済学』(1991年)は北米のマルハナバチの生態学の本です。
付録という形で,日本のマルハナバチについての解説(伊藤誠夫著「日本産マルハナバチの分類・生態・分布」)が載っています。
その中に検索表がついていました。

マーラー・エリアの長さはその前縁幅とほぼ等しい(図5D)。中単眼―側単眼間には1列の弱小点刻があるだけで,それに続く両単眼の周りの無点刻域を隔てる点刻も疎かつ弱小で,両無点刻域の境界はあいまいである(図8A-a)
…………コマルハナバチ

背面の黒毛はビロード状で,毛は一様に短くきれいに刈り込まれたようである。腹端の赤燈色は濃く鮮やかである。額の点刻は強く,中単眼前の無点刻域はごく狭く,事実上ない(図8C-b)。大顎の主隆起(図1,α)は赤みが強く,先端部は赤葡萄酒色に近い
…………クロマルハナバチ

素人にはちょっと専門的すぎて煩雑ですね。

その点『マルハナバチ・ハンドブック』(1997年)(50ページ,新書サイズの薄い本です)は,一般人向けに書かれたマルハナバチ判別のためのハンドブックなので,大変わかりやすい検索表です。

同書によると,次の手順で検索してゆきます。
①雄・雌(女王バチ・働きバチ)を判別する
②胸の部分の毛の色で判別
③それぞれのポイントで判別

①この個体は女王バチで間違いないと思いますが,確認のため同書によって雌がどうかを判別します。
・触角……雄は13節,雌は12節。(雄の触角は雌のものより細長く見える)
・腹部先端(おしりの先)……雄は丸みがある,雌はとがっている。
・腹部……雄は7節,雌は6節。
・花粉かご……後脚脛節に,雄は花粉かごがない,雌にはある。
[写真3]は,この個体の触角です。
12節なので,雌に間違いありません。

②雌の検索表に進み,胸部の色を確認します。
この個体は胸部全体が黒色です。
胸部全体が黒色のものは,クロマルハナバチかコマルハナバチしかありません。

③後脚の基跗節の形で判別します。
湾曲がきつければクロマルハナバチ,あまり湾曲していなければコマルハナバチです。

この個体の後脚

基跗節の形から,この個体はコマルハナバチだと判定できます。

クロマルハナバチは現在,個体数が激減していて,京都府のレッドデータブックでは絶滅危惧種に指定されています。
この個体がクロマルハナバチだった可能性は,かなり低かったのです。
京都府レッドデータブックには,クロマルハナバチについて次のように書いてありました。

もともと平地ではトラマルハナバチやコマルハナバチに比べて個体数は多くない種であるが、1980年頃までは京都府市内でも深泥池や東山近辺でそれなりに生息しており、まずまず普通種であったが、最近、京都府市の市街地はもちろん貴船や芦生でさえほとんど姿を見ないくらいに減っており、ほぼ全域で絶滅が危ぶまれる。

原因は不明だが、クロマルハナバチの個体数は激減している。コマルハナバチはまだ比較的よく観察される。場所にもよるが、コマルハナバチは5~6月に集中的に活動するので、それなりの個体数を維持しているようである。しかし、本種の姿は見かけない。自然植生の大きな変化が、なんらかの形で影響している可能性も高い。1960年代の初めに、宮本セツは農薬の乱用や自然植生の単純化の進行にともない、特にクロマルハナバチが減少しつつあると先見の明をもって警告している。残念にして近年、事態は破局的に展開している。

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