美術館裏庭の藤棚に花が咲いていました。フジの花の形はマメ科特有のもので,蝶形花冠といいます。よく見ると,虫たちに効率よく花粉を付着させるための,おもしろいしくみを有しています。
花の突き出た部分を指で押すと,雄しべの葯と柱頭があらわれます(写真2)。蜜におびき寄せられた虫が花にとまると,重みで花弁がさがり,葯と柱頭が露出,虫に花粉をつけるというしくみです。虫がとまる部分の花弁(翼弁,舟弁)の基部が細くなっていて,少しの加重でもたわむようになっています。
マメ科の雄しべは「二体雄しべ」といわれる形態をしています。10本ある雄しべのうち,9本の花糸が合着して1束となり,残りの1本が独立しているというものです(写真3)。くっつくなら全部くっつけばよいのに,どうして1本だけ独立しているのでしょうか。何か理由があるのでしょうね。
春に咲くフジの自生種には,フジ(ノダフジ)とヤマフジの2種類があります。フジは右巻き,ヤマフジは左巻きですが,公園などの藤棚のフジは,太い幹は左巻き,つるは右巻きになっていることがあります。これはヤマフジの台木に,フジを接いであるためです。
フジは本州,四国,九州に分布しますが,ヤマフジは兵庫県以西にのみ分布するそうです。
地人書館「新訂 図解生物観察事典」による,フジ(ノダフジ)とヤマフジの相違点。
比較点 | フジ | ヤマフジ |
---|---|---|
花序 | 頂生 | 頂生 |
茎(牧野式) | 右巻き | 左巻き |
花穂 | 長く 20~50cm |
短く 10~15cm |
花の咲き方 | 基部から咲く | 同時に咲く |
花の開き方 | 正面を向いて咲く | 横を向いて咲く |
花の色 | 紫色,まれに白色 | 白色または紫色 |
葉 | ほとんど無毛 | 表裏に毛がある。とくに裏面には軟毛が密生する |
さや | 細毛がある | 短い毛が密生する |
花もち | 一夜でだめになる | 花もちがよい |
冬芽 | りん片に白色の微毛がわずかにある | りん片の基部に毛が多い |