歩道に小枝がたくさん落ちていました。
見上げると,大きなクスノキの枝にとまっていた十羽ほどのカラスが,一斉に飛び立ちました。
[写真6]のように,小枝の枝元には折られた跡があります。
カラスの仕業でしょうか。
実を食べるために枝を落としたのならば,歩道に降りて実をついばんでいる仲間のカラスがいてもよさそうですが,そのような様子はありませんでした。
単に枝を折るのを楽しんでいたのでしょうか。
[写真1]は落ちていた枝についていた,クスノキの実。
黒々とした液果で,中に1個の種子がはいっています。
[写真2]は実が落ちたあとの花托です。
クスノキの葉の主脈分岐部には小さなふくらみがあり,ダニの一種が寄生しています。
ダニ部屋をもつ植物は熱帯地方には何百種類とあるそうですが,日本ではクスノキだけです。
[写真3]は表面,[写真4]は裏面。
裏面には小さな穴があって,ここからダニが出入りしています。
花は小さく目立ちません。花期は5月~6月。
[写真5]は2005年5月23日に写したものです。
クスノキの葉をもむと,樟脳の匂いがします。
昔はクスノキから樟脳を取っていたのです。
「朝日百科 植物の世界」には,次のように書いてありました。
樟脳は根をはじめ幹や枝葉を蒸留して得られ,英語で「カンファー(camphor)」,医薬上はカンフルという。古代エジプト,ギリシャの時代から薬用,宗教上の儀式に用いられた。殺虫剤,医薬,工業原料となり,明治36(1903)年から昭和37(1962)年まで重要な輸出品として樟脳の生産・販売が専売法で制限されていたが,今日では合成樟脳に取って代わられた。
分布域について,保育社「原色日本植物図鑑」(1989年)には次のように書いてありまっした。
本州では滋賀県の竹生島が栽培の北限である。京都では栽培されたものから,ヒヨドリなどの小鳥によって種子が散布され,野生状となってよく生育する。市内にはクスノキがよく栄えている。京都府南部の八幡以南のは野生かもしれない。南ほどよく栄え,九州には大木で天然記念物になっているものが多い。
名前の由来について,「牧野新日本植物図鑑」(1970年)には次のように書いてありました。
〔日本名〕和訓栞に『奇(くすしき)の義也といえり,よく石に化し,樟脳を出すものなれば名くる成るべし』と出ているが定説とすることは出来ない。〔漢名〕樟。楠はクスではない。楠のほん物は日本にはない。