ネジバナが咲いていました。
見た目そのままの名前なので,一度名前を覚えると忘れません。
螺旋状に上りながら花を咲かせるとは,奇妙で美しい習性です。
ネジバナの花がなぜ螺旋状に咲くのか,「朝日百科 植物の世界」(1997年)には次のように書いてありました。
葉が1節に1枚ずつつく互生葉序では,葉のついている位置を順次結んでいくと,それが茎を回る螺旋になる。ある葉から次の葉を結ぶのに左右両方から回れるが,葉序の定義では,180度より小さい(近い)方を採ることにし,この回った角度を開度といういい方で表現する。この180度より小さい方を順次結んでできる螺旋を基礎螺旋というが,その方向を見ると,同じ植物でもさまざまな葉序があるのと同時に,ほぼ半分ずつ,左右両方向の基礎螺旋があることがわかる(表2>。葉序は規則正しい数列に表現されるが,蔓の巻きの左右と違って,この基礎螺旋の方向というのは人間が認識しただけのものであって,植物体の内部構造を調べても,このような螺旋が存在しているわけではない。
ラン科のネジパナは花序が螺旋状にねじれているのでこの名があるが,花序自体は葉序のひとつの変形と見なせる。したがってネジパナでも,左右両方向にねじれたものがほぼ同じくらい見つかるのである。
これによると,元々互生している葉っぱは螺旋状についているので,葉序の変形と考えられるネジバナの花序も螺旋状についている,ということです。
ネジバナは雑草として扱われていますが,ランの一種です。
ランは菌根菌に寄生しているため,人工的な栽培や繁殖が難しい植物です。
ネジバナも路傍に咲いているため簡単に栽培できそうですが,以外に栽培は難しいそうです。
ネジバナと菌根菌の関係について,前書には次のように書いてありました。
腐生性の菌根菌との結合のよい例が,ネジバナ Spiranthes sinensis var. amoena である。ネジバナはオーストラリア東部から日本にかけて分布し,乾いた草地や明るい林内のほか,路傍の側溝や水が染み出しているような場所に生育する。そして,土壌中の遺体に生える腐生生物のトゥラスネラ・カロスポラ Tulasnella calospora という世界中に見られる菌根菌と結びついている。ネジバナ属の生育環境は,この菌がすむのにも理想的な環境なのである。
ネジバナは別名モジズリともいいます。
モジズリの名の由来について,『牧野富太郎植物記』(1973年)には次のように書いてありました。
モジズリという名の由来は「捩れ摺り」からでた名です。捩摺り(もじずり)というのは,
みちのくのしのぶもぢずり誰(た)れゆゑに
乱れそめにし我ならなくに
という古今集の河原左大臣という人のよんだ歌にもでているように,奥州の福島県信夫郡(しのぶぐん)でつくられた「忍捩摺り(しのぶもじずり)」からでていることばでシノプの葉をすりつけて染めたものともいわれています。このすりぎぬは乱れ模様に染めてあったことから,歌では「乱れそめ」をひきだすことばとしてつかわれています。
さて植物のモジズリは,このすりものの乱れ模様のように花がもじれ巻いているので,モジズリという名がつけられたものです。
この草は別名ヒダリマキともいいますが,花のつき方は左巻きのこともありますし,また右巻きのこともあるのでこの名は感心しません。しかし,ふつうは左巻きのほうが多くみられます。