アセビの花はつぼ型をしていて,下向きに咲いてます。[写真4]
ドウダンツツジ[写真5]やネジキなど,ツツジ科にはつぼ型をして下向きに咲く花が多いですね。
下向きに咲く花がつぼ型をしているのは,下向きに口を大きく開いた構造では,花弁の重さに口の部分の剛性が耐えられないからだそうです。
開口部を小さくして剛性を高めるているのです。
アセビの花を指でつかむと,以外にしっかりしています。
この形も,長い年月の間に適者生存を繰り返し,ようやくたどり着いた力学的理想形なのでしょう。
アセビの雄しべには2本の突起があり,虫が突起に触れると葯がお辞儀をして,花粉を虫の体に振りかける仕組みになっています。
[写真1]は花弁を切り開いたところ。
[写真2]は雄しべのアップ。2本の突起があります。
[写真3]は真下から見たところ。雌しべの周りに10個の雄しべが環状に取り囲んでいます。
アセビは「馬酔木」と書くように,有毒植物であることが知られています。
有毒であるのはアセビに限ったことではなく,ツツジ科の植物には有毒であるものが多いようです。
『朝日百科 植物の世界6』(1997年)ツツジ科の有毒成分に関して次のように書いてありました。
現在の人の生活圏のなかで身近に接することの多いツツジ科の植物に関して残されている記録をたどってみよう。紀元前4世紀ころ、ギリシャの哲学者であり軍人であったクセノフォン(Xenophon)は、ペルシャ王子キュロス(小キュロス)のペルシャ遠征事績を綴った「アナパシス(Anaabasis)」のなかで、コルキス人の住む山岳地帯の村て起こったできごとを次のように記録している。「兵士たちが蜂蜜を食べると錯乱状態に陥り、少量摂取したものはしたたか酒に酔った者のごとく、多量に食べた者は狂人のごとくなり、瀕死の状態に陥る者すらあった。こうして多数の者が倒れ,まるで戦い負けたように士気が沈滞したが、1日後の同時刻に正気に返り,(中略)この中毒はハナヒリノキLeucothoeやツツジ属rhododendron の植物の蜜から採った蜂蜜に起因する」と記録している。ハナヒリノキは日本にも自生する落葉低木で、葉の粉末が鼻に入ると皮膚粘膜を刺激し、激しいくしゃみが出るのでこの名がつけられている。昔からその毒性を利用して,葉の煎汁を家畜の皮膚寄生虫駆除薬に使用してきた。
またアセビ Pieris japonica は,本州中部地方以西の丘陵に多い常緑の低木で、牛馬がこの葉を食べると酩酊状態になるので「馬酔木」と書く。アセビに近縁のネジキ Lyoniaovalifolia var. elliptica は,島根県三瓶地方では放牧地帯に生育し、牛馬が食べて中毒を起こす「霧酔(むすい)病」で知られている。ツツジ科の植物による家畜の中毒は日本国内だけでなく海外でもしばしば発生し、ボルトン(J.F.Bolton)は、毎年霜や雪の影響で牧草の少なくなる冬季、あるいは天候不順によって植物の生産量などに変化が生じた時期に事故が集中している、と述べている。北アメリカでは、色の美しさにひかれて子ども花をしゃぶったり、葉をお茶にして飲んだ事故も報告されている。
有毒成分の化学構造式が明らかにされたのはシャクナゲの1種ロドデンドロン・マクシムムRhododendron maximum のアンドロノドトキシンが最初で,その後、ハナヒリノキのクラヤノトキシン類、アセビのアセポトキシン類、レンゲツツジ R.molle var. glabrius のロドトキシン、ネジキのリオニトキシンが解明された。いずれの化合物もジテルペンという構造が骨格になっている。団芸用に栽培されているカルミア・アングスティフォリア Kalmia angustifolia,カルミア・ラティフォリアk.latifolia なども有毒物質を含んでいる。
これによると,蜜も有毒なのですね。
市販されている蜂蜜にツツジ科植物などの毒がまざってないか心配になるところですが,現代の蜂蜜で中毒症状が出たという話は聞いたことがありません。(乳児ボツリヌス症は別として)
少量混ざっている程度では問題ないのでしょうか。