• トンビ
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電柱の上に,1羽のトンビがとまっていました。

オオタカかなと思って,急いでカメラを向けたのですが,「ピィーヒョロロロ」と鳴いたのでトンビとわかり,少しがっかりしました。
平安神宮のあたりにオオタカが出没するそうなので,このあたりで見かけてもおかしくないのですが,まだ見たことはありません。

「トンビがタカをうむ」という諺があるように,トンビは猛禽類のなかでは一段低く見られています。
魚や動物の屍肉をあさる雑食性のせいでしょうか。

オオタカのような,自分で狩った生きた獲物しか食べないといういさぎよさに,人々は憧れるのでしょうね。
しかし,その代償としてオオタカは食物連鎖の頂点に立つことになり,生息数は自然に抑制されてしまいます。

トンビに関する諺はたくさんありますが,いずれもあまりよいイメージではありません。
・とんびが身震いしたよう……みすぼらしいありさまのようす
・とんびの巣立ちのよう……へたな笛の音をあざけっていう
・とんびも居ずまいからタカにみゆる……身分のいやしいもの者でも,起居が正しければ上品に見えるというたとえ
・とんびも物を見ねば舞わぬ……自分の利益にならないことには努力しないものだというたとえ
・とんびの子タカにならず……凡庸な親の生んだ子は,やはり同じように凡庸であることのたとえ

トンビのかんばしくない印象は,欧米でも同じようです。
荒俣宏著『世界大博物図鑑』(1987年)には,次のように書いてありました。

トビは西洋人にとって,意地汚い鳥の代表である。そのためあまりよい印象はないが,プリニウスによると,〈それでも葬式の供物や神官が捧げた犠牲だけは,いかにひもじくとも盗んでいかない〉最低限の道徳をもちあわせた鳥ではある。かつてはロンドンなどの大都市でも多くみられた鳥で,街の空地に捨てられる屑をあさる〈掃除屋>であった。それで〈卑しい鳥〉のイメージが強められたのだろう。
 いっぽう,中国ではトビは〈もの忘れ〉の象徴だった。粛宗の張皇后が,帝に飲ませる酒に,いつもトビの脳を混ぜていたという逸話がある。この酒は人を長く酔わせるうえ,忘れっぽくさせる効能があるといわれたためである。これによって張皇后は帝をあやつり,権力を独占した(段成式《酉陽雑俎》)。

平凡社『世界大百科事典』(2005年)には,トビに関する日本の「民俗」に関して次のように書いてありました。

《日本書紀》には神武天皇を助けて長髄彦(ながすねひこ)の軍を降伏させた〈金色霊鵄(こがねのあやしきとび)〉の記事があり,また愛宕(あたご)神はトビを神使としている。しかし,ネズミやカエルなどの死体をついぱむ悪食のうえ,人の魚をかすめとることもあるので,かつては人家近くに多く見られて身近だった反面,人々からは憎み疎まれることもあった。トビの鳴声と飛翔は特徴的なので,天候占いによく使われる。その中の一つ〈トビが舞えば雨〉ということわざは,〈鳶不孝〉の昔話とともに語られる場合が多い。その昔話によると,トビは人間であったとき,あまのじゃくな息子であった。親の墓を川辺にたててしまったので,雨が降ると墓が流されてしまう。そこで雨模様になると心配して,トビは川面を低く飛んで鳴くのだという。なお,トビが屋根にとまるのを火災の前兆とする俗信は,現在でも各地にみられる。

「金色霊鵄」については,『世界大博物図鑑』にも,次のように書いてあります。

《和漢三才図会》に述べられている愛宕山のトビは,古来,神の使いとみなされた。一説によると天照大神(あまてらすおおみかみ)が皇軍を守護するため,トビと化して天からくだり,愛宕山にすむことをみずから望んだのだという。トビを聖鳥とする信仰の決定的な材料は,〈金色のトビ伝説〉である。すなわち《日本書紀》には,神武天皇の部隊が長髄彦(ながすねひこ)の軍勢に苦戦していると,突然氷雨とともに空から〈金色霊鵄(こがねのあやしきとび)〉が飛来し,その光かがやく姿に眩惑された相手を降伏に追いこんだという記事がある。しかもこの象徴は〈金鵄(きんし)勲章〉として近代日本に復活した。この勲章は,戦前の軍国主義時代,武勲をたてた軍人に授与されたものである。1810年(明治23)に制定され,のちには経済的恩典もつけられた。第2次大戦後制度が廃止されるまでに拝受者総数は約10万名にものぼった。