南禅寺参道の歩道に蛍がいました。[写真1]
ゲンジボタルの雄です。
ゲンジボタルは幼虫で越冬し,よく年の春に蛹になります。
羽化するのは,5月~7月。
成虫の寿命は,10日から2週間ほどです。
過去の写真を見ると,この場所では,毎年6月上旬から中旬に姿を見せます。
2010年6月9日(→2010年6月29日)
2009年6月17日
2007年6月12日(→2007年6月12日)
いずれも雄です。
雌は雄の1/3ほどしか発生しない上に,川沿いの茂みの中に隠れているので,なかなか見つけることができません。
雄は腹の第6節と第7節に,発光器があります。[写真4][写真5]
ゲンジボタルをよく見ると,頭部が何か変な感じがします。
頭部の大部分を黒い複眼が占めていて,眼が大きすぎますよね。[写真6]
アップにすると,少し不気味です。
「源氏蛍」とは雅な雰囲気のある名前ですが,源氏物語の時代にはゲンジボタルは何と呼ばれていたのでしょうか。
『枕草子』の冒頭部分
夏は,夜。月の頃はさらなり。闇もなほ。螢の多く飛び違ひたる。また,ただ一つ二つなど,ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。
『源氏物語』では蛍は巻名のひとつにもなっていて,重要な舞台装置のひとつです。
兵部卿宮はホタルの光に浮かび上がった玉鬘の姿の美しさに心を奪われ,思いを伝えます。
鳴く声も聞こえぬ虫の思ひだに人の消つには消ゆるものかは 思ひ知りたまひぬや
玉鬘の返歌
声はせで身をのみ焦がす蛍こそ言ふよりまさる思ひなるらめ
いずれも,ホタルは蛍ですね。
当たり前ですよね,今でもホタルを,わざわざゲンジボタル,ヘイケボタル,ヒメボタルなどと分類して,普通は言いません。
ホタルは蛍として,光りながら飛んでいるのを見つけたら,すなおに感動する。
無用な講釈をたれず「ほのかにうち光りて行くもをかしい」と感じるのが,いいのかしれません。
荒俣宏著『世界大博物図鑑』には,ゲンジボタルの名の由来について,次のように書いてありました。
ゲンジボタル,ヘイケボタルというよび名が生まれたのは比較的後代のことらしく,虫の各地の方言を多数集めた小野蘭山《本草綱目啓蒙》にも,このふたつの名はみあたらない。神田左京《ホタル》によると,昔はゲンジボタルはウシボタル,オオボタル,イッスンボタル,宇治ボタルとよばれ,ヘイケボタルはユウレイボタル,ネンネポタルなどとよばれていた。ここより神田は,ゲンジ・へイケの名は東京で明治以降に生まれたもので,その後地方に赴任した小学校教員などの影響で徐々にひろまっていったのではないか,としている。
神田左京はまた,《源氏物語》の主人公光源氏が,〈光る源氏〉すなわちゲンジボタルという名の誕生に少なくとも間接的には関わっているはずだ,としている。そしてゲンジボタルの名ができたあと,ヘイケボタルという名は源平合戦の連想から生まれたのだろう,と結論した(〈ゲンジボタル,ヘイケボタルの和名に就いて〉≪動物学雑誌≫)。
さらにゲンジボタルの名は, 《源氏物語》の〈源氏蛍の光を借りて玉鬘(たまかずら)の容姿を示す〉という文句に由来するという説もある(大場信義《ゲンジボタル》)。
ゲンジボタルの名の由来について,〈顕示〉ボタルの意味だと解する人もいる。暗闇で光を放ち,みずからの存在を顕示しているからだそうだ(三石暉弥《ゲンジボタル 水辺からのメッセージ》)