ヒノキの枝先に,小さな雄花がたくさんついていました。[写真1]
まだ未熟ですが,もう少しすると大量の花粉を放出しそうです。

ヒノキの花は小枝の先に雌雄の花が別々につきます。
ヒノキは花粉の運搬を風にまかせる風媒花なので,雌雄どちらの花にも花弁などはなく,地味な花です。
雄花はたくさんの数を一斉に咲かせ,まだ目につくことがありますが,雌花は見たことがありません。

ヒノキはマツやスギと同じく裸子植物です。
裸子植物とは,種子植物のうち胚珠が心皮に包まれることなく裸出しているものをいいます。
裸子植物にも,普段みかける被子植物の花とはすこし構造が異なっているものの,雄花には雄しべがあり,葯に花粉ができ,雌花には種子のもとである胚珠があります。
(裸子植物の生殖器官を花と認めない立場もあるそうです。)

『牧野新日本植物図鑑』(1970年)には,ヒノキの花について次のように書いてありました。

雌雄同株。4月に開花する。花は細かく,細枝の端につく。雄花は多数あり,広楕円体で紫褐色をしている。鱗片内に3やくあり黄花粉を出す。雌花は枝の梢につき,球形で鱗片内には4胚珠がある。

[写真2]は,雄花を拡大したところ。
赤い部分が葯です。
[写真3]は,花粉の顕微鏡写真。
球形で,大きさは30~40マイクロメートル(0.03mm~0.04mm)。
細胞の中に星のようなものが見えるそうですが,解像度が低いのではっきりとわかりませんでした。

雌花は雄花より数が少なく地味なので,見つけるのに苦労しました。
どうも手の届くような低い位置には,雌花は少ないような気がします。
種子を風に飛ばす風散布のためには,高い位置に実を付けるほうが有利なので,雌花は高い位置に多く咲くのではないでしょうか(想像ですが)。
「雌花は枝の梢につき」と書いてあるのを手掛かりに,枝の先端を探してみると,ようやく見つけることができました。[写真4]

[写真5]は雌花の拡大写真。
水滴のようなものが光っているのがわかります。
多分これが受粉滴と呼ばれるものだと思います。
胚珠は先端の珠孔から水滴(受粉滴)を分泌し,これで花粉を捕えるそうです。
捕えられた花粉は受粉滴と一緒に珠孔に吸い込まれます。

[写真1]と見ると,花は葉の先から出ているように見えます。
すこし奇妙な感じがしますが,緑色の部分は全部が葉なのではなくて,小枝の表面を鱗片状をした葉が覆ったものなのです。

[写真7]は,小枝を縦に切断した断面です。
鱗片状をした葉が木質の枝を覆っているのがわかります。

平凡社『日本の野生植物 木本Ⅰ』(1999年)には,ヒノキの葉について次のように書いてありました。

葉は鱗片状で十字対生し,鈍頭で,細枝の側部につく葉は鎌形で長さ3mm内外,表裏にある葉はひし形でその約半長。太枝の側葉は長さ14mm内外あるが,表裏にあるものはやはりその約半長である。両面は緑色であるが,裏面では合せ目に白色の気孔群があって,Y字状を呈する。

[写真6]は,小枝の裏面です。
白い気孔線がY字形に見えます。

[写真8]は,小枝についていた球果です。
中に詰まっていた種子は秋に風散布され,今の時期には空っぽです
左側が小枝の裏面,右側が小枝の表面。
球果は下向きに付いているのがわかります。

『牧野新日本植物図鑑』(1970年)には,ヒノキの球果について次のように書いてありました。

球果はしばしは枝の上に群生して着き,直径1cm位,木質で褐色の球形をしている。種鱗はたて形で,7~9個ある。種子は鱗片の基部に着き,長さ3mm位,左右に翼をもち,秋の終り頃に散る。