毎年おなじ場所に発生するキノコです。
きれいな苔の緑の中に,1本だけ白いキノコが出ているので目立ちます。
いかにも地面をかき分けて,今地上に出てきましたという風に,苔が傘にぶら下がっています。
傘に帽子のような黒い破片を載せていたり,ツボがあったり,柄がささくれていたり,色々と特徴の多いキノコですが,今まで名前がわかりませんでした。
今回再度調べて,フクロツルタケでないかという気がしています。
保育社『原色日本新菌類図鑑(Ⅰ)』(1987年)には,フクロツルタケについて次のように書いてありました。
傘は径5~8cm,鐘形からのちほとんど平らに開く。表面は類白~帯褐色でこれに白色または淡紅褐色の粉状~綿くず状の小鱗片があり,またときに大きなつぼの破片を付着することがある。肉は白色,傷つくとしだいに帯紅色になる。ひだは離生し密,初め白色のち淡紅褐色をおびる。柄は6~14cm×5~10mm,根もとは太まり,表面は白色で傘と同様の鱗片におおわれ,膜質のつばを欠く。つぼは大形で厚い膜質,白~淡紅褐色。胞子は楕円形~長楕円形,7.5~12.5×5~7μ,アミロイド。ひだの縁細胞はこん棒形,西洋なし形,類球形など,24~45×12~26μ。夏~秋,林内の地上に発生,ことにコナラ,クヌギ,アラカシ,コジイなどブナ科の樹下に多い。
一つずつ確認してみます。
・傘は径5~8cm,鐘形からのちほとんど平らに開く
[写真5]のスキャン画像から測ってみると,傘の径は6.3cm。
傘の形は,例年見ているところによると,ほとんど平らになるまで開きます。
・表面は類白~帯褐色でこれに白色または淡紅褐色の粉状~綿くず状の小鱗片があり,またときに大きなつぼの破片を付着することがある
傘の表面は白く,淡褐色の,オニイグチのような小鱗片があります。
傘の上についている褐色の大きな破片は,「大きなつぼの破片」のようです。
・肉は白色,傷つくとしだいに帯紅色になる
肉は白色ですが,傷をつけても帯紅色にはなりません。
ここが一番気になるところで,「肉が紅変する」というのがフクロツルタケの大きな特徴の一つとされているのに,このキノコは紅変しません。
[写真5]は切断して30分ほど経っていますが,傘の肉は白いままです。(写真を見て気付いたのですが,柄の部分が変色しているようにも見えます)
・ひだは離生し密,初め白色のち淡紅褐色をおびる
ひだは白色で,離生,密です。
・柄は6~14cm×5~10mm,根もとは太まり,表面は白色で傘と同様の鱗片におおわれ,膜質のつばを欠く
柄の長さは14cm,直径10mm~12mmで根元にゆくほど太まっています。
柄の表面は白色で,鱗片におおわれています。
鱗片は「傘と同様」といえると思います。
柄にはリング状の鱗片がいくつもついているので,「膜質のつばを欠く」といえるのかどうかよく分かりません。
・つぼは大形で厚い膜質,白~淡紅褐色
つぼは大形で,色は白色。
膜の厚さは薄いと思ったのですが,[写真5]の断面を見ると,厚い部分もありますね。
胞子については,顕微鏡がないのでわかりません。
・夏~秋,林内の地上に発生,ことにコナラ,クヌギ,アラカシ,コジイなどブナ科の樹下に多い
このキノコの発生場所のまわりにはアカマツが生えていて,「ブナ科の樹下」ではありません。
以上,いくつか特徴が異なる点もあるのですが,明確に否定する点もないように思えます。
『山渓カラー名鑑 日本のきのこ』(1995年)に載っているフクロツルタケの写真は,このキノコとはかなり印象が違います。
掲載されている写真はテングタケ科のキノコによくある粉っぽい感じがしますが,このキノコはカラカサタケのような,繊維質っぽい感じがします。
一見,網で焼いたらおいしそうです。
しかし,フクロツルタケならば,食べたら一大事です。
「猛毒で,1972年奈良県で中毒死した例がある」(前書)そうです。
ネットでフクロツルタケの写真を色々と見て回ると,似ているものもあり,似ていないものもあり,よくわかりません。