コウヤボウキの花が咲いていました。[写真1]
花びらは細長く,先がカールしていて,たくさんの純白のリボンをアレンジしたように見えます。[写真2]

コウヤボウキは「高野箒」で,(真言宗総本山)高野山の箒の意味です。
枝ぶりや花の形が箒の形をしているという訳ではなく,幹枝を束ねて実際に箒として使っていたことに由来します。
なぜ高野山では竹箒ではなくコウヤボウキの箒が使われていたのか,一説では開祖弘法大師が大蛇を竹箒に封じ込めたという伝説により,竹箒の使用が禁止されていたため,とあります。

『牧野新日本植物図鑑』(1970年)には,コウヤボウキについて次のように書いてありました。

関東以西の本州,四国,九州および支那中部に分布し,山地や丘陵のやや日当りのある乾いた疎林の下などに多い草本状の落葉小低木。高さは60~90cmぐらい,幹枝は細く,葉と同じく短毛があり,よく分枝する。一年枝は卵形で,へりにはまばらな歯状の低きょ歯がある葉を互生し,二年枝はやや細長な小葉を節ごとに3~5枚ぐらいづつ束生し,いずれも3脈が目立ち圧毛があり,後者は秋になると枯れる。秋にその年に出た枝の先ごとに白色の頭花を頂生する。総包は長さ13~14mm。総包片は鱗片に重なり,花冠は長筒状で5深裂,長さ約15mmで, 1頭花に13個内外が集まる。そう果は長さ5.5mmぐらいで密に毛があり,先端には赤褐色で剛毛状の冠毛があって風で飛散する。〔日本名〕高野山でこの幹枝でほうきを作るのでこの名がある。古名クマボウキ。

生育場所は「山地や丘陵のやや日当りのある乾いた疎林の下など」。
九条山でも,日当たりのよい山道の,露出した岩肌に生えています。
日陰になっている場所には生えていません。

草本状」ですが「落葉小低木」であり,木本に分類されています。
日本産のキク科植物で木本のものは数種しかありません。
木と草の違いは,『写真で見る植物用語』(全国農村教育協会 2004年)によると

草(草本)
地上にある茎は生存する期間が短く,木化したり肥大成長することがほとんどない。
木(木本)
地上の茎は1年を越えて生き続け,木化し肥大生長する。

コウヤボウキの茎は「1年を超えて生き続け」ますが茎の寿命は2年で,「木化」の程度は弱く,「肥大生長」もしません。
草と木の境界線上の植物のようです。

1年目の枝と2年目の枝は,葉のつき方が異なります。[写真6]
一年枝は卵形で,へりにはまばらな歯状の低きょ歯がある葉を互生し,二年枝はやや細長な小葉を節ごとに3~5枚ぐらいづつ束生
また,2年枝には花はつかず,秋になると枯れてしまいます。

花はキク科の例にもれず頭状花序です。
1個の花に見えるものは,たくさんの小花(しょうか)が集まったものです。
1個の小花を取り出したのが[写真3]。
根元に生えている細かい毛(冠毛)は,萼の変形したもの。
[写真2]の頭状花序にも萼があるように見えますが,花序を包んでいるものは萼ではなく総苞(そうほう)です。

小花を手にとり,5裂した花びらを引っ張ると,花びらに細い糸が付いていて,上部で一つにまとまっています。[写真4]
普通の花と構造がすこし違うので,どれが雄しべで,どれが雌しべかわかりにくいですが,細い糸が雄しべの葯を支えている花糸です。
葯は合着して,筒状の集約雄しべとなっています。
雌しべは,筒状をした集約雄しべのなかに入っています。

雌しべは成長するにつれ,先端の柱頭が集約雄しべの中を上昇し,葯で作られた花粉を外へ押し出します。
[写真5]の左側,先端に黄色い花粉が付いています。
この時期は,柱頭はまだ受精できる状態ではなく,自家受粉はしません。
両性花で,雄しべが先に成熟し,雌しべが後から成熟するものを,雄性先熟といい,花粉を放出している時期を雄性期といいます。

雌しべが成熟すると,柱頭は二つに割れ,花粉を受け入れることができるようになります。
この時期を雌性期といい,[写真5]右側の状態です。