歩道に小さなカキの実が落ちていました。[写真1]
かなり高いところから落下したらしく,つぶれはしていないものの,どの実にもひびが入っていました。
見上げると,崖の上にそれらしき木があります。[写真6]
葉がすべて落ちた枝には,実がまだたくさんついていました。

大きさは,3cmから4cmほど。[写真2]
実を切ると,中身は熟していて,おいしそうです。[写真3]
なめてみると,渋みはなく甘い味がしました。
小ぶりの実には種は入っていませんでしたが,大きな方の実には3個の種が入っていました。

種の写真を撮るため,まわりについている果肉を水で洗いました。
ところが,なかなか果肉がとれず,種の表面がいつまでもぬるぬるしています。
よく見ると,ぬるぬるしているのは果肉ではなく,種のまわりを透明な膜が覆っているのでした。[写真4]

これは,動物や鳥に食べられた後に消化されてしまわないための工夫のようです。
カキが甘い実をつけるのは,哺乳動物や鳥が実を食べることにより,糞中に不消化の種が残されることを期待してのことです。
小林正明著『花からたねへ』(2007年)には,次のように書いてありました。

果実は動物に食べられ果肉は消化されるが,種子は普通消化されない。このようにして散布される種子の種類は多い。

この方法を周食散布または果肉報酬といい,ほ乳類や鳥に依存することが多い。これらの動物は恒温性なので,体温を保つためにエネルギーを多く必要とする。そのために多食するので散布してもらいやすい。また鳥は歯がなくて餌を飲み込むので種子が傷つかない。また空を飛ぶために身を軽くする必要があり,数分から数十分で排出するという特性がある。早く排出すると親植物からの移動距離が極端に遠くならず,似ている環境に散布される可能性が高い。鳥の排出の多くは数十m,どんなに遠くても1kmを越すことはないといわれている。

しかし種が消化されてしまっては,種子散布の目的を果たすことができません。
植物は未熟な種を食べられないようにしたり,食べられた種が消化されないようにするために,いろいろな工夫をしているようです。
同書には,次のように書いてありました。

果実は熟度によっても色を変化させている。未熟で青い果実は共通してまずく,渋かったり酸い。これは未熟なものは食べられないようにするためである。鳥や獣はそれを学習していて,青い果実は決して食べない。

ただキジやハトなど,砂のうが発達したものでは種子を消化してしまうことがある。このようなことに対応するために,トマトやカキのように種子の周りにぬるぬるした物質を用意して歯や砂のうをすり抜ける工夫しているものもある。

カキの種が例としてあげられているということは,カキの種のぬるぬるはよく知られている事実のようです。
言われてみればカキを食べたときに種の周りがぬるぬるしていたような,といっても近頃売っているカキは種が入っていないので,種の入っているカキを食べたのは随分昔のような気がします。

[写真5]は,種を半分に切ったところ。
この図を作っていて気がついたのですが,種から少し頭を出している芽のようなものは,「芽」ではなく「根」なのですね。
芽を出すより根を張ることの方が先だというのは,教訓話めいています。