地面にとまり,激しく翅を震わせているガがいました。
写真を撮ろうとカメラを向けると,ピタリと動きを止め,今度は背景と一体化する擬態モードに入ったようです。
多分何かに擬態しているのでしょうが,地面の上では逆に目立ち過ぎますね。

昆虫はとてつもなく種類が多く,基本的には写真だけで同定することはできません。
たいていの虫は捕まえて帰って名前を調べるのですが,ガはどうも捕まえる気になりません。
とりあえず写真で名前を調べてみました。

虫の名前を調べるときには,だいたいいつも『小学館の図鑑 NEO』をめくることから始めます。
小学生向きの図鑑ですが,網羅的に載っているので大体の種類を知ることができます。
この虫はガであることは明白ですが,ガも種類が多く簡単には「科」までゆきつけません。
また図鑑に載っているのは展翅された姿なので,実際に生きて翅を広げて姿とは大きくイメージが異なります。
実際の写真を展翅された姿に補正しながら,ページを1枚ずつめくり,絵合わせをしてゆきました。

見当をつけたのは「キオビゴマダラエダシャク」。
微妙に斑紋が異なりますが,少なくともシャクガ科ではあるようです。

次に,ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』でシャクガ科の成虫縮小画像一覧を調べました。
たくさんの写真が掲載されていて,しかも標本の写真ではなく,とまっている姿が載っているので,大変参考になります。

一つずつ見てゆくと,やはり「キオビマダラエダシャク」ではないかと思えてきます。
掲載されている写真を見ると,白地にゴマダラ模様の部分は,個体ごとに異なるのが普通のようです。

次に,図書館で学研教育出版『日本産蛾類標準図鑑1』(2011年)を調べました。
同書には,キオビゴマダラエダシャクについて,次のように書いてありました。

開張: ♂47~59mm,♀58~67mm。 ♂触角は本属の他種のように明確な櫛歯状ではなく,長い繊毛をもつ鋸歯状。♂♀ともに尾端に淡黄色の毛を密生。翅の色彩斑紋にはかなりの変異があるが,橙黄色の内横線と外横線,暗色斑の配置,特に大きな横脈紋は特徴的。

[生態]年1化で, 6月上旬から8月中旬まで見られ,蛹で越冬する。各地に普通に産する。

触角の形状について「♂触角は本属の他種のように明確な櫛歯状ではなく,長い繊毛をもつ鋸歯状。」とあります。
この個体の触角は,鋸歯状ではなくひげ状をしているので♀だとわかります。

開張(翅を広げたときの長さ)は,「 ♂47~59mm,♀58~67mm」となっています。
[写真4]を測ってみると,開張は73mm。
随分大きいですが,開張は翅の開き方によって長さが違ってきます。
『小学館の図鑑 NEO』では,「開張」ではなく「前翅長(前ばねの長さ)」が掲載されています。
キオビゴマダラエダシャクの前翅長は32~40mm。
[写真4]で前翅長を測ってみると36mmとなり,妥当な範囲にあります。

翅の模様についても「翅の色彩斑紋にはかなりの変異がある」とあります。
ネットで検索して色々な写真を見比べても,ゴマダラ模様部分はひとつとして同じものがないほど変化にとんでいます。
名前のとおり,キオビマダラエダシャクを特徴づけているのは,翅の外縁にある黄橙色の帯のようです。

「6月上旬から8月中旬まで見られ」るので,発生時期も一致します。

翅を震わせていたのは,何かを威嚇していたのかもしれないと思い,体をつついてみました。
そうすると,やはり翅を細かく震わせ始めました。
[写真6]はその様子を写したものですが,翅がぼやけて写っているだけで意味がなかったですね。