ベランダの片隅にキアシナガバチが巣をつくっていました。[写真1]
キアシナガバチは攻撃性が弱くて危険度は低いのですが,あまりにも家人の日常動線に近いため,駆除することにしました。

ハチが集まっている夜に,巣めがけて殺虫剤を吹きかけました。
一斉に飛び立つものの,すぐにポトリポトリと落ちてきます。
ハチは虫のなかでも特に殺虫剤に弱い種類のようです。
以前,飛んでいるカに向かって殺虫剤をスプレーしたところ,当のカは平気で飛び続けていたのに,たまたま通りかかったハチは一息吸い込んだだけで(という感じです)とたんにふらついて壁にぶつかっていました。
明らかに神経系統に作用しているという効き方でした。

この巣には,6頭のハチがいました。[写真2]
[写真2]の左上が女王バチです。
他の働きバチより一回り大きな体をしています。
[写真3]は女王バチと働きバチを比較したものです。
働きバチも全部メスで,女王バチより体がすこし小さいだけで形態的には変わりありません。

アシナガバチの生活史の「典型」について,平凡社『日本動物大百科 第10巻 昆虫Ⅲ』(1998年)には次のように書いてありました。

(1)春に越冬からさめた受精メス(女王)が単独で巣づくりを始め,子を育てる。 (2)初夏には子ども(メス)が羽化し,働きバチとしてはたらき,女王は産卵に専念するようになる。 (3)晩夏から初秋にオス,そして未来の女王となるメスが羽化し,女王と働きバチは死んでいく。(4)オスと未来の女王が交尾し,未来の女王のみが越冬に入る。これはまさに「典型」であり,例外のほうがむしろ多いともいえる。

この巣は(2)の段階にあったようです。
育室の中には,様々な成長段階の幼虫・蛹が入っていました。[写真10」
[写真10」の下左は羽化したばかりの成虫で,育室から這い出る寸前だったようです。
その右側は蛹です。
チョウなどの蛹と何か違う感じがするのは,ハチの蛹は「裸蛹(らよう)」といわれるものだからです。
チョウなどの蛹は翅や肢,触角などが体表にはりついて蛹全体が一体になっている(「被蛹(ひよう)」)のに対して,ハチの蛹は触角,翅,肢などが体から離れていて,はっきりと形がわかります。
蛹と成虫の中間といった感じです。

北隆館『新訂 原色昆虫大図鑑 第3巻』(2008年)には,キアシナガバチについて次のように書いてありました。

体長20~26mm。黒色で斑紋は鮮黄色。肢の黄斑も顕著である。第2腹背板の帯紋前方両側の斑紋はやや褐色ないし赤褐色。翅は半透明で黄色味をおびる。頭はやや大きく,頬は発達し,背面から見て後方に狭まらない。前伸腹節は幅広く,顕著な2縦斑があり,基側部は強く角ぼる。 ♂の触角末端節はうちわ状に丸く拡がり,扁平。

セグロアシナガパチに酷似するが,キアシナガバチの♀では,後頭隆起線がよく発達し大腮の基部に達する,触角柄節から鞭節数節の上面が黒い(八重山の個体群でのみ明るい褐色)などの特徴によって区別できる。

・体長20~26mm
この個体は女王バチが22mm,働きバチが17mmでした。[写真2]

・黒色で斑紋は鮮黄色。肢の黄斑も顕著である
[写真3]

・第2腹背板の帯紋前方両側の斑紋はやや褐色ないし赤褐色
この個体ではよく分からないのですが,以前捕まえた別の個体(♂)(→2012/12/8)では斑紋が赤褐色になっているのがよくわかります。[写真9]

・頭はやや大きく,頬は発達し,背面から見て後方に狭まらない
[写真6]の頭部の写真ではわざと大顎を開いて獰猛そうな表情にしていますが,大顎を閉じて真正面から見るとアンパンマンそっくりです。

・前伸腹節は幅広く,顕著な2縦斑があり,基側部は強く角ぼる
前伸腹節に2本の縦斑があるのが,類似種のセグロアシナガバチとの相違点です。[写真4]

・♂の触角末端節はうちわ状に丸く拡がり,扁平
♂の触角→2012/12/8

・後頭隆起線がよく発達し大腮の基部に達する
「後頭隆起線」というのがどこをさすのかよくわからなかったのですが,[写真6]の部分かなと思います。

・触角柄節から鞭節数節の上面が黒い
[写真5]

翅は薄い透明な膜で普段は折りたたまれ,飛ぶときに広がります。[写真7]
後翅の前縁には翅鉤(しこう)と呼ばれる小さなフックが並んでいます。[写真8]
これを前翅の後縁にひっかけることにより,前翅と後翅が連結され,一枚の翅のように動きます。