アオサギが鉄柱の先端にとまっていました。
くちばしが赤くなり,脚も赤味がかっています。[写真2][写真3]
婚姻色が現れはじめているようです。
1月に撮った写真を見ると,くちばしも脚もまだ黄色をしています。[写真5]

鳥はオスの方がメスより派手な体色をしているものが多いですが,サギの仲間はオスとメスは同じ体色をしています。
婚姻色も同じように両方に現れるようで,雌雄を見分けるのは困難です。

体色といえば,アオサギのからだはどう見ても灰色にみえますよね。
どうしてアオサギの名がついているのでしょうか。
昔の人が感じる「アオ」という色は,現代人が連想する青色よりもっと広い範囲の色をさしていたようです。
小学館『日本大国語大辞典』(1980年)には,青の語義について次のように書いてありました。

本来は,黒と白との中間の範囲を示す広い色名で,主に青,緑,藍をさし,時には,黒,白をもさした。

平凡社東洋文庫『和漢三才図会6』1987年には,アオサギについて次のように書いてあります。

蒼鷺(あおさぎ・みどさぎ)〔和名は美止鷺。これは緑の下を略した言い方である〕
『和名抄』(羽族名第二三)によれば,蒼鷺は鷺に似ていて小さく,色は蒼黒〔美止佐木〕とある。いま蒼鷺と称しているものは鷺に似ているが大きい。頭,背,翅はみな蒼黒。頂の冠毛(さかげ)も同色である。頭の上から胸まで黒毛が斑斑とある。翅の端は正黒。嘴の外は黒く内は黄で,腹は白く脚は緑である。つねに水辺を歩いて魚を食べる。飛ぶとよく高く挙がり,遠くまで翔(かけ)る。その肉は最も美味である。夏月に賞美するが,白鷺より勝れている。

「アオ」には「青」ではなく「蒼」の字が当ててあります。
青色を表す漢字「青」「蒼」「藍」の違いについて,福田邦夫著『色の名前はどこからきたか』(1999年)には次のように書いてありました。

各種言語における基本色彩語の比較研究に,中国語の色名で,青の範囲を呼ぶのに使われているのは藍(ラン)であって,青(セイ)や蒼(ソウ)ではない。五つの正色のひとつであるはずの「青」は,もとは「生」(あおい草の芽ばえ)と,「丼」(井戸の中に清水のたまったさま)を合わせた文字とされ,あお草や清水のような澄みきった色,という意味のかなり抽象的な言葉で,漠然と青い感じを表わすあいまいな色名であったらしい。だから漢詩などで新緑や若芽の色の形容に使われても別におかしくはないわけである。蒼の方は,倉にとりこんだ牧草を表わし,くすんだあお色のこととされ,青とは反対に生気のない感じの色を表わすという。やはり抽象的な印象を表わす言葉で,具体的にどんなあおを指す色名なのかはっきりしない。形容としては草木が生い茂る様子を表現するのにも使われるし,白居易の「賣炭翁」にも―両の鬢(びん)は蒼蒼(そうそう)として十の指は黒し―とあるように,色とは関係なく艶が失せて生気のない有様を表すこともある。

アオサギの「あお」が「くすんだあお色」「色とは関係なく艶が失せて生気のない有様を表す」なら,アオサギの名もうなずけます。

『和漢三才図会』の記述で気になるのは「その肉は最も美味である。夏月に賞美するが,白鷺より勝れている。」とあることです。
これより前の記述に,ゴイサギは「肉味は夏秋に賞味する。冬はなまぐさみがあって佳くない。」,シラサギは「肉は淡甘で,夏月に最もこれを賞味する。」,ダイサギは「味は甚だ佳くない」とあります。
そのなかでアオサギは「その肉は最も美味である」と。

これだけサギ類の味について書いてあるということは,昔はサギを食べることは普通のことだったようです。

ヨーロッパでもサギは食用にされていたそうで,荒俣宏著『世界大博物図鑑 4 鳥類』(1987年)には,次のように書いてありました。

中世ヨーロッパでは,サギの肉が賞味され,クジャク料理と同じく長寿の効用があると信じられた。このため,サギを対象にした鷹狩が流行した。またその羽,とくにシラサギの冠毛は髪飾りや騎士の帽子飾りなどの装飾品(aigrette)として愛用されたため,イギリスでは乱獲が行なわれ,19世紀には同地のシラサギは姿を消した。