アオサギの頭骨です。
15,6年前に,ほとんど白骨化したアオサギを見つけて持ち帰りました。
全身の骨格標本を作ろうとしばらく置いていたのですが,大きすぎて断念。
頭部だけを骨格標本にしていたものです。

あらためて手にとると,随分小さく感じます。
嘴の先までは17.6cmあるのですが,細長くて幅は3cmほどしかありません。

嘴は堅く,魚を突き刺すこともできそうです。
一方で脳頭蓋は薄く,うっすらと脳を覆っているにすぎません。
もしアオサギ同士が争って,嘴で相手の頭部を攻撃したら,相当のダメージを与えることになりそうです。

松岡廣繁他著『鳥の骨探』(2009年)には,アオサギの頭骨について,次のように書いてありました。

ツルに間違われることもある本種。頭骨も外形はよく似ているが,鼻孔は小さく嘴は塊状で,ツル科のものとは全く様子が違う。鼻孔後端部は丸みがあって切れ込んではいない。このような鼻孔の状態は「全鼻孔型」と呼ばれる。全鼻孔型の鳥の嘴は,上顎全体が下顎を押し付けるように動く。ツル類と比較すると,ツル類は雑食性があり土をおこしたりもするので,上顎の先端のみを曲げることができる「分鼻孔型」が都合良く,暴れる獲物を抑え込むことのみを優先する動物食のサギ類は剛直な「全鼻孔型」が都合良い,と考えられる。

アオサギは「全鼻孔型」で鼻孔が小さい,ツルは「分鼻孔型」で鼻孔が大きい,とあります。
同書に載っているタンチョウの頭骨を見ると,確かに上嘴の2/3は鼻孔で空隙となっています。
外形はアオサギと同じような形をしているのに,専門的にみると随分違うものなのですね。

「上顎の先端のみを曲げることができる」鳥独特の嘴の動きを「キネシス」といいます。
松岡廣繁他著『鳥の骨探』(2009年)には,キネシスについて,次のように書いてありました。

顎の開閉システム:鳥独特の「キネシス」
例えば,2本の箸のように長いシギ類の嘴は,細い穴から巧みに獲物をつまみだす。このとき,上嘴の先端だけが曲がっている。このような顎の動きと作用は,哺乳類のように剛直でなおかつ顎関節が「I軸回転」性の顎骨では不可能である。鳥の嘴が精巧な捕獲器であるのは,外見上の形態的多様性のためだけではなく,そこには,上下の嘴を巧みに操ることができる独特の筋-骨格系があるのだ。

顎関節における下顎の開閉:
頭骨側の方形骨と下顎骨(関節骨)との間に顎関節があり,顎の開閉のメインはここで行われる(①)。しかしこれだけでは顎はぴったりとは閉まらない。

可動性のある方形骨:
恐竜も含め他の爬虫類では,方形骨は他の骨要素としっかり組み合って,頭骨の後側端に固定されている。ところが鳥類では,方形骨は背側後端にボール状の関節面をもって,鱗状骨(脳頭蓋コンプレックス)に形成される”ソケット”に関節し,ここを支点として前後に振り子のように動くようになっている(②)。

鼻骨-前頭骨間のちょうつがい構造:
下顎骨との顎関節を除き,方形骨にはこの他に,側面に方形頬骨,内側面に翼状骨が関節し,これらはそれぞれ頬骨,口蓋骨と連結して,いずれも上嘴の腹側部に連結する。上嘴の背側は鼻骨-前頭骨間(④)がフレキシブルな構造になっているため,この2つラインの「換り棒」は,鱗状骨のソケットを中心とした方形骨の振り子運動によって,上嘴を引き下げ(③+⑤)あるいは押し上げることになる(③+⑤)。

同書を参考に,嘴の動きを図示したのが[写真2]です。
キネシスの要になっているのは方形骨ですね。
「方形」という名がついている割りには,いくつもの出っ張りのある奇妙な形をした骨です。
哺乳類では,方形骨は耳小骨となっているそうです。