東山の濃い緑の中に,モコモコと湧き出すように黄色い模様が現れています。[写真1]~[写真4]
シイの花です。
いつもは目立たない木ですが,花の咲く時期になると東山のいたるところに黄色い模様が広がって,シイの木がこんなにたくさんあったのかと驚かされます。
木の下を通ると,かなり強い匂いがします。

シイの花には雌花と雄花があります。
同じ木に雄花と雌花がつく,雌雄同株(しゆうどうしゅ)です。[写真6]
雄花は10cmほどの細い花軸に柄のない花をたくさんつけ,穂状花穂となります。[写真8]
ふさふさとした黄色い花穂が大量に垂れ下がり,これが遠くから見ると黄色いモコモコに見えます。

一方,雌花はとても花には見えません。
5cmほどの枝のような花軸(?)についた小さな瘤から,3個の短い花柱が突き出ているだけです。[写真9]
こういうものも穂状花穂というのでしょうか。
雄花序が垂れ下がるの対して,雌花序は上に向かってそそり立ちます。
[写真5]をよく見ると,大量に垂れ下がる雄花序の間に雌花序が見えます。

果実(いわゆる椎の実)は2年型で,翌年の秋に熟します。
[写真10]の左側は柄ごと落ちたシイナ(翌年の夏に未熟なまま落ちるものも多い),右側は熟した果実。

『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,シイの花について次のように書いてありました。

6月頃,長さ10cm前後の上に向いた穂状花穂を新枝の葉脇から出し,密に黄色のおばなを開き強い香りを放つ。雌雄同株。虫媒花,おばなは小形で,がくは5~6裂し,おしべは15個内外。めばなの穂は下部の葉脇から出て短かく,花も少数で,花に花柱が3個ある。

わざわざ「虫媒花」と書いてあります。
シイの花の形態は風媒花を思わせます。
垂れ下がった雄花序,むき出しの花柱をつけた雌花序,枝をゆすると大量の花粉が舞いあがります。
どう見ても風媒花ですよね。
でも風媒花なら,匂いを発する必要はないはずです。
花の匂いは,花粉の媒介者である虫を呼び寄せるためのものです。
シイの花は甲虫などを呼び寄せているようです。
また蜜もたくさん分泌していて,以外にも,シイの花は昔からニホンミツバチの重要な蜜源になっているそうです。

東山でシイが増えていることについては,色々と議論があります。
京都伝統文化の森推進協議会のパンフレット『京都三山の危機 森林の荒廃・景観の変貌が進んでいます』には,京都盆地周辺の植生変遷について,次のようにまとめてありました。
京都盆地周辺の植生変遷

今後,東山をどうしてゆくのかについては,京都市都市計画局により「京都市三山森林景観保全・再生ガイドライン」が作成されています。