家の灯りにひき寄せられて入ってきたのか,床にコメツキムシがいました。
白っぽい,かなり大型のコメツキムシです。
手に持つと,体をカクン,カクンと動かす感触が,強く伝わってきます。

名前を調べると,フタモンウバタマコメツキ。
地域的分布にかたよりがあるようで,京都府レッドデータブックでは,要注目種になっています。

冠島を含めて舞鶴市には比較的多い。府南部の記録は少なく、府中央部では今まで記録を見ない。主として温暖地の照葉樹林帯に生息し、分布も局所的である。

形態は次のように記載されています。

体長21.0~36.0mm。大型で肥厚し特に前胸背板は中央が縦に、上翅の基部から後方に隆起が著しい。全身に密布する小型の灰黄色鱗片で薄い灰褐色に見え、黒色鱗片の集合で前胸背板の中央前方に横位の1対の小黒紋を、上翅には黒色及び褐色の鱗片による大型半月型の斑紋を外側縁中央にもつ。南西諸島南部から東南アジアに分布する名義タイプ亜種オオフタモンウバタマコメツキC. larvatus(Candeze)では上翅末端が横位で三角形状にはならない。

・体長21.0~36.0mm
この個体は体長31mm。[写真1]

・大型で肥厚し特に前胸背板は中央が縦に、上翅の基部から後方に隆起が著しい。
[写真2]

・黒色鱗片の集合で前胸背板の中央前方に横位の1対の小黒紋
[写真2]

・上翅には黒色及び褐色の鱗片による大型半月型の斑紋を外側縁中央にもつ
[写真3]

・名義タイプ亜種オオフタモンウバタマコメツキC. larvatus(Candeze)では上翅末端が横位で三角形状にはならない。
本種は,上翅末端が三角形状になります。[写真7][写真8]
「名義タイプ亜種」とは,「ある種が複数の亜種に分かれるとき,自動的に定義される、種小名と同じ学名の亜種」をいいます。
保育社『原色日本甲虫図鑑3』(1985年)の「ウバタマコメツキ属Cryptoalausの種の検索表」には,次のように書いてありました。

1.触角は赤褐色~暗褐色。前胸背板は平行状で,正中部に沿って尾根状に隆起する。上翅肩部には隆起線をそなえ,翅端は切断状。 26~32mm ……オオフタモンウバタマコメツキ
 a.上翅端はほぼ直線状に切断される。小笠原,琉球;台湾,中国,ベトナム……C.l.larvatus (CANDEZE)
 b.上翅端は弧状もしくは「へ」の字形に切れこまれる。本州,四国,九州,隠岐,伊豆諸島(式根島,神津島,三宅島,御蔵島),対馬,壱岐,五島列島,屋久島……C.l.pini(LEWIS)

aが名義タイプ亜種,bが日本固有亜種ということになりますが,和名は記載されていません。
京都府レッドデータブックでは,名義タイプ亜種larvatusを「オオフタモンウバタマコメツキ」,日本固有亜種piniを「フタモンウバタマコメツキ」としています。

ウバタマコメツキの「ウバタマ」の語源として,ネットには「色調や斑紋が烏羽玉という菓子に似ることに由来する」と書かれているものがありました。
「烏羽玉(うばたま)」は「老玉」とも書き,古くからある定番の和菓子です。
[写真12]は,近所の和菓子店で購入した「老玉」。
付いていた栞によると

菓銘「老玉」とは、黒くて丸い形が、あやめ科の桧扇という植物の実に似ているので、名付けられた。古くは、夜、月、夢といった言葉の枕詞に、「ぬば玉・・・」と用いられた。 鳥の濡羽にも似た漆黒の色なので、「鳥羽玉」とも書き、「ぬばたま」「うばたま」と訓(よ)む。

要は「烏羽玉」という菓子は,黒い色をしているからこそ「烏羽玉」であり,それも漆黒の黒さが売りの菓子です。
ウバタマコメツキの体色とは全く異なります。

念のため,京都以外の地域の「烏羽玉」を,ネットで調べてみました。
するとほとんどの地域の「烏羽玉」は,あんを求肥で包み,白砂糖をまぶしたものでした。
黒色ではなく,白色,ところによっては紅色,鶯色などの色をしています。
菓子名に由来するという説は間違いだと思っていましたが,あながち間違いとはいえなくなってしまいました。

しかし,虫の名前に菓子名をつけるでしょうか。
よっぽど甘党だったのかも。

本個体が跳ね上がる瞬間の動画