道脇の茂みから伸びた枝に,白い花がたくさんついていました。[写真1]
長い花柄に,下向きに咲いた5弁の花。[写真3]
匂いを嗅いでみると,クチナシのような甘い香りがします。
毎日横を通っているのに,今まで毎夏こんな花が咲いていたとは,気づきませんでした。

何の花でしょう。
エゴノキの花に似ていますが,エゴノキは落葉樹です。
タチバナの花にも似ていますが,柱頭の形が違います。
色々調べてたどり着いたのは,意外にもサカキでした。
ここは日向神社の参道にあたるので,サカキが植わっていても不思議はないのですが,この辺りで見るのはヒサカキばかりなので,サカキは少し意外な感じがしました。

サカキについて,『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には次のように書いてありました。

関東から西の山林中にはえる常緑の亜高木で,また通常神社の庭や墓地に植えられる。葉は厚く,葉柄があり互生し,枝の上に2列に付き,長楕円状倒卵形で長さ8cm前後,先の方は鋭く細くなっているが末端は丸く,全縁で表面はつるつるしていて質は強いがもろい。枝の先端の芽の最外の鱗片1個が大きく,弓のように曲って鳥の爪の形をしているのは特徴である。夏に花柄のある花を腋生し,花は1~3個が束になって付き,下向きに開く。緑色のがく片は5個。花弁は5個で,下部は互に寄り集まり,白色で後に黄色味を帯びる。雄しべは多数,やくには逆向きの毛があり,雌しべは1本。液果は球形,径4mmほどで,熟すると黒くなり,多数の種子がある。

・葉は厚く,葉柄があり互生し,枝の上に2列に付き,長楕円状倒卵形で長さ8cm前後,先の方は鋭く細くなっているが末端は丸く,全縁で表面はつるつるしていて質は強いがもろい。
葉の縁にはギザギザは全くなく,全縁です。[写真4]
濃い緑の,平滑な葉が,整然と2列に並んでいるところが,神にささげる木として選ばれた理由かもしれません。
「質は強いがもろい」とあるので指で引っ張ってみると,確かに簡単にちぎれてしまいました。

・枝の先端の芽の最外の鱗片1個が大きく,弓のように曲って鳥の爪の形をしている
頂芽が無毛で,鎌状に曲がっていることが,本種の大きな特徴のようです。
[写真5]

・夏に花柄のある花を腋生し,花は1~3個が束になって付き,下向きに開く
[写真2][写真3]

・緑色のがく片は5個。花弁は5個で,下部は互に寄り集まり,白色で後に黄色味を帯びる
萼片は緑色で5個。[写真6]
花弁は5個。[写真7]
花弁ははじめ白いですが,のちに黄色味を帯び,反りかえります。[写真8]

・雄しべは多数,やくには逆向きの毛があり,雌しべは1本。
多数の雄しべが,ひと塊になって雌しべを取り囲んでいます。[写真9][写真10]
写真を拡大してみると,葯に棘のような毛が生えているのがわかります。[写真11]
花柱の先は2裂しています。図鑑によると「花柱の先は2~3裂する」とあります。[写真12]

・液果は球形,径4mmほどで,熟すると黒くなり,多数の種子がある。
11月頃に黒い果実をたくさんつけます。
毎年見ているはずですが,印象に残っていません。

学名の Cleyera japonica は,長崎出島のオランダ商館館長クライエルに由来するそうです。
『朝日百科 植物の世界』(1997年)には,次のように書いてありました。

 属名は,オランダの医師であり,植物学者でもあったクライエル(A.Cleyer,?~1697/98)を記念したものである。彼は,1682~83年,および1685年から長崎出島のオランダ商館館長の地位にあったが,1686年に幕府によって密輸が摘発され,かかわった日本人は斬首,クライエルは終身国外追放の処分を受けた。在任中,彼が買い集めた日本の植物の絵図739点には,1856年にシーボルト(P.F.von Siebold,1796~1866)によって学名がつけられている。