朝,歩道脇の擬木に隠れるようにトンボが止まっていました。[写真1]
まだ寝ているのか,じっとしています。
トンボを見るのは今年初めてです。
細長い金属色の体はカワトンボのなかまでしょうか。

調べると,これはアサヒナカワトンボのようです。
カワトンボ属は近年まで3種に分けられていましたが,DNA鑑定の末にアサヒナカワトンボとニホンカワトンボの2種に整理されました。
分類が混乱しDNA鑑定が必要だったほど両種は似ていて,一方で地域差,個体差もあるということですね。

ミナミヤンマ・クラブ『近畿のトンボ図鑑 』(2009年)には,アサヒナカワトンボについて次のように書いてありました。

無色翅の♂と♀の組み合わせで生息していることが最も多いが,地域によって橙色翅の♂が加わる。このタイプは橙色翅に不透明部分がないものが大半である。一部地域では不透明部分が出るものがあるが,二ホンカウトンボに比べて出る範囲は狭い。判断に迷う個体では次の区別点を参考にして同定する。翅脈は二ホンカウトンボと比べるとやや粗い。縁紋は短く位置は先端こ寄る。翅胸がやや小さく,翅胸高は頭幅より小さい。後胸後腹板の前半(胸部腹側の後肢の後ろあたり)は♂♀とも黒色である。ただし♀には稀に黄色のものがある。

ニホンカワトンボについては,次のように書いてありました。

橙色翅に広い不透明部分のある♂と淡橙色翅の♀が最も基本的な型で,これについては翅だけでも分かる。紛らわしいのは無色翅の♀で,場所によってかなり高い確率で見られる。見た目は前種に比べ,胸部ががっしりした感じなので慣れれば見当がつけられる。翅脈は密で縁紋はアサヒナカウトンボより長く位置は基部寄り。翅胸が大きく,翅胸高が頭幅より大きい。後胸後腹板の前半が♀では黄白色である。白粉で見にくい時はここにアルコールを少しつけてみるとよい。

まず,この個体は腹端が膨らみ尾毛と産卵管があることから,♀です。[写真5][写真6]
翅は無色です。[写真2]
近畿地方で無色翅の♀であればアサヒナカワトンボの確率が高いですが,ニホンカワトンボにも「紛らわしいのは無色翅の♀で,場所によってかなり高い確率で見られる」そうです。

判断に迷う場合の区別点としてあげられていた,アサヒナカワトンボの特徴。
①翅脈は二ホンカワトンボと比べるとやや粗い。
翅脈の粗密は両者を比較してのことなので,初心者が翅を見ただけで判断するのは困難です。
ネットで調べると,翅脈の粗密を数値化して比較する方法が載っていました。(→神戸のトンボ
結節から外側の第1径脈 R1 と第2径脈 R2 の間の,亜結節から外側の横脈数を数える方法で,グラフ化された結果を見ると,ニホンカワトンボの♀は大体40~50,アサヒナカワトンボの♀は大体30前後となっています。
本個体の横脈数を数えてみました。
アサヒナカワトンボ♀の横脈数
横脈数は32本なので,アサヒナカワトンボに該当します。
ちなみに,同サイトでは縁紋にかかる横脈数を使う簡便法も提唱されていて,♀の場合,5本以上あればニホンカワトンボ,3本以下であればアサヒナカワトンボとなります。
本個体は3本でした。

②縁紋は短く位置は先端こ寄る。
「短い」「先端に寄る」は,ニホンカワトンボと比較してのことなので,同定の指標としては微妙です。

③翅胸がやや小さく,翅胸高は頭幅より小さい。
[写真10]のとおり,本個体の翅胸高は頭幅より小さくなっています。

④後胸後腹板の前半(胸部腹側の後肢の後ろあたり)は♂♀とも黒色である。ただし♀には稀に黄色のものがある。
[写真11]は,本個体の後胸後腹板前半部です。
黄色ですね。
黄色なのはニホンカワトンボの特徴なので,どちらなのか迷ってしまいましたが,「ただし♀には稀に黄色のものがある」とあり,この稀な例にあてはまるようです。

以上から,本個体はアサヒナカワトンボの♀と判定しました。

[写真12]は,3年前に同じ場所の擬木にとまっていたカワトンボです。
淡橙色翅のニホンカワトンボ♀ではないかと思います。
この付近では,アサヒナカワトンボとニホンカワトンボが混生しているようです。