近所の草地にアブラナの花が咲いていました。

アブラナ
アブラナ[ in夷谷町 on2024/3/1 ]

 三条通の歩道脇にも咲いています。

アブラナ
アブラナ[ in東小物座町 on2024/2/29 ]

 外来種のセイヨウアブラナが分布を拡げているそうなので,アブラナを見れば先ずは外来種を疑ってしまいます。
 これもセイヨウアブラナなのでしょうか。

 どちらなのか調べようと思うものの,図鑑を見ても両者の違いについて明確に書いてあるものがありません。
『新分類 牧野日本植物図鑑』(2017年)には,アブラナについて次のように書いてありました。

アブラナ (ナタネナ, ニホンアブラナ) 〔アブラナ科〕
Brassica rapa L. var.oleifera DC.Nippoleifera Group
(B.rapa var.nippoleifera (Makino) Kitam.)
 恐らく原種は中国から渡来したものであろうが,日本では古くから栽培されている越年生草本. 全体が平滑で茎の高さ1m以上にもなり,上部では分枝する. 葉はかなり大きく, 茎の基部の葉は有柄で先太り形で,少数の裂片をもった羽状に裂け,時には裂けないものもある. ふちには鈍い歯牙がある. 上面は鮮緑色,下面は白色をおび,葉柄は時にはわずかに紫色をおびることがある. 上部の葉は基部は耳状になって茎を抱き,無柄,広披針形,先端は鋭形,羽裂することはない. 4月頃,茎頂に総状花序を立て,はじめは散房状であるが,花軸が次第に伸び総状になり,黄色の十字花が密集してつく. がく片は披針状の舟形,長さ6mmぐらい. 花弁は倒卵形,先端は円形,基部は狭くなってくさび形,長さ10mmぐらい. 雄しべは6,中の4本が長い. 雌しべは1. 花が終わってから円柱形で,先端に長いくちばし状突起をもった長角果を生じ,熟すると開裂し,黒褐色の小粒状の種子を散らす. 〔追記〕 なたね油はかつては本種の種子からしぼっていたが, 現在アブラナとして栽培されているものは漢名を蕓薹というウンタイアブラナ B.rapa var.oleifera DC. か,別種のセイヨウアブラナ B.napus L.である.

 セイヨウアブラナには言及があるものの,相違点については書いてありません。
 『日本の野生植物』にもアブラナ属全体の解説があるだけで,それぞれの種についての解説はありませんでした。

アブラナ(花)
アブラナ(花)

 ネットで調べていると,『河川環境に自生するアブラナ属植物の識別について』(2022年)という論文を見つけました。
 この論文によると,アブラナ属のアブラナ,セイヨウアブラナ,カラシナには誤同定が多く,河川環境では意外にセイヨウアブラナの群生は少ないことが報告されています。
 カラシナ(広義)B.juncea,セイヨウアブラナ(広義)B.napus,アブラナ(広義)B.rapaの形態的特徴も表になって詳しく載っていました。

 この論文に載っていたいくつかの特徴で同定してみました。
●葉の質について
・カラシナ(広義)B.juncea
タカナ類は柔らかいが,rapa より硬いものも多い。(皺が多いことも影響)。特有の辛味がある。
・セイヨウアブラナ(広義)B.napus
やや革質的で硬い。指で押しつぶそうとしてもなかなか潰れない(採集しても,なかなか萎びない)。辛味はない。
・アブラナ(広義)B.rapa
柔らかく,指で押しつぶすと組織が壊れるものが多い(採集すると,早くに萎びる)。辛味はない。

  この株の葉を噛んでみると,辛味はないのでカラシナではありません。

アブラナ(茎葉)
アブラナ(茎葉)

●上部茎葉について
・カラシナ(広義)B.juncea
有柄またはほぼ有柄で,基部は茎を抱かない。
・セイヨウアブラナ(広義)B.napus
無柄で,基部は少し~やや大きく広がり茎を抱き(多くは耳たぶ状),葉身はやや幅狭い。
・アブラナ(広義)B.rapa
無柄で,基部はやや大きく広がり茎を完全に抱き(~ときに抱かないものもあり),葉身は幅広い。

 → この株の茎葉基部は,茎を抱いています。

アブラナ(茎葉基部)
アブラナ(茎葉基部)

●花序について
・カラシナ(広義)B.juncea
花序内の個々の花の間隔はやや空き,蕾は花より上あるいは同じ高さにある。
・セイヨウアブラナ(広義)B.napus
花茎が伸長しながら開花するため,花序内の個々の花に間隔が空き,花より上方に蕾が見える。
・アブラナ(広義)B.rapa
花茎の伸長が遅く,花序内の個々の花の間隔が狭く,花が重なって見え,蕾は花の下に隠れていて見えにくい。

 花が咲いている時期には,これで見分けるのがが一番分かりやすいと思います。
 → この株の蕾は花の下に隠れているので,アブラナ(広義)B. rapaです。

アブラナ(花序)
アブラナ(花序)

●萼片について
・カラシナ(広義)B.juncea
黄色~黄緑色~淡緑色まで変異が大きい。萼片の角度は変異が大きいが45°前後に立ち上がるものが多い。
・セイヨウアブラナ(広義)B.napus
やや緑色がかった黄色で蕾時の緑色がなかなか抜けない。rapa,juncea より大きく,45°以上に立ち上がる。
・アブラナ(広義)B.rapa
花弁と同じ黄色で,角度は水平~45°。

 → この株の萼片の角度は水平~45°

アブラナ(花)
アブラナ(花)

●長角果について
・カラシナ(広義)B.juncea
果柄は通常rapa よりさらに短く,長角果はnapusよりは短く,45°まで立ち上がり,細い。
・セイヨウアブラナ(広義)B.napus
果柄,長角果ともに長く,長角果はやや立ち上がる傾向があり,果柄と長角果で角度が明瞭に変わる。嘴も長い。
・アブラナ(広義)B.rapa
果柄は比較的短く,長角果はあまり立ち上がらず(果柄- 長角果で角度変化は小さい),開出気味で短く,やや太いものが多い。嘴は短め。

 → この株にはまだ果実はできていませんが,花後の子房の様子を見ると花柄に対してあまり立ち上がっていません。

アブラナ(花柄と子房)
アブラナ(花柄と子房)

 咲いていた花は,セイヨウアブラナ(広義)B.napusではなくアブラナ(広義)B.rapaのようです。
 アブラナ(広義)B.rapaは奈良時代に移入されて以来,野菜として栽培されてきたことから栽培品種や変種その雑種を含めて変異幅が大きくなっています。
 アブラナ(広義)B.rapaに含まれる野菜品種としては,在来ナタネ(狭義のアブラナ),カブ,コマツナ,ハクサイ,ミズナ,タアサイなどがあり,それらが逸出して多様な形態を構成しているようです。