1週間前の台風4号は,夜半に通り過ぎ,朝方には風,雨とも止んでいました。
台風一過の朝,家の前の道に風で吹き飛ばされた小枝や葉に混じって,緑色をしたきれいな繭が落ちていました。[写真1]
ウスタビガの繭です。
壺のような独特の形をしています。
中の蛹は羽化したのか,空っぽです。

平凡社『世界大百科事典』(2005年)には,ウスタビガの繭について,次のように書いてありました。

繭は緑色,長い柄で枝にぶら下がっており,カマス形をしているのでヤマカマス(山叺)と呼ばれる。緑色なため葉の茂っているときは目だたないが,秋の落葉後には鮮やかに見える。

叺(かます)とは,わらむしろで作った袋のことです。
わらむしろを二つ折りにして縁を縫い閉じているので,口をあけていると,ちょうど[写真2]のような形になります。

ヤマカマスの名の由来はわかりやすいのですが,ウスタビガの「ウスタビ」とはどういう意味なのでしょうか。
調べたのですが,定説はないようです。
古い図鑑には「薄手火蛾」の漢字が当ててありました。
「手火」とは「手に持つ火」で「たいまつ」のことです。
一説によると,「手火」は提灯のことで,繭が枝にぶら下がっている形を提灯に例えたものとあります。
その場合,頭についている「薄」は何を意味するのでしょうね。

繭の上端には,羽化した成虫が脱出するための口が用意され,底には水抜き用の穴が開いています。[写真3]
繭を縦半分に切ってみると,中は意外なほどきれいです。[写真4]
内壁はコーティングしたような滑らかな肌をしています。

繭の下部には仕切りがあり,二重底になっています。[写真5]
仕切りの周囲には11個の小さな穴が開いていました。
水抜き用の穴だそうですが,これほど周到な水抜きを施す理由とは何なのでしょうか。

【多摩丘陵・私の出会った生き物たち28】<繭の孔(あな)>というページに,興味深い話が載っていました。

繭を作る時期は、日本ではちょうど梅雨です。上部の出入り口を開けっ放しで繭作りをするので、雨が入って水浸しになったら大変です。そこで水が溜まらない様に水抜きの孔を開けるという、素晴らしい発明をしたのです。

3年前中国の奥地東チベットを旅した時、高度3600mの稲城という地の河辺の林で、ウスタビガの幼虫と古い繭を見つけて嬉しかったのですが、繭の形は同じなのに、底の水抜き孔がないのです。ウスタビガは中国原産といわれていますが、ずっとずっと昔、日本に渡って来て梅雨を知ったウスタビガたちは、繭に水抜きの孔を開けるという進化を遂げたのかもしれません。

[写真6]は成虫の雌。(→2005年11月22日
羽化後,1週間ほどの間に交尾,産卵して寿命を終えます。