石垣の水面近くに,小さなヤモリがへばりついていました。[写真1]
獲物がくるのをじっと待っているようです。

体が黒く,水際にいたので,最初はイモリだろうと思っていました。
しかし写真をよく見ると,イモリではありません。
イモリなら(なにしろ両生類なので)水中を泳ぐのに適した,ひれのような尾をしているはずですが,これは細長い棒状の尾をしています。(イモリ→[写真8])
(イモリについて→2013年7月9日

グローブのような指で壁に張り付くのは,爬虫類のヤモリです。
しかし家の中によくいる見慣れたヤモリとはすこし感じが違います。
[写真7]が,よく見かけるニホンヤモリです。(→2002年12月21日

見比べてみると,今回のヤモリの方が色が黒く,尾が長くてほっそりしている感じがします。
何より,発見場所が水路の石垣というのが,普通のヤモリとは異なります。
ニホンヤモリは「家守」と書くように,主に人家とその周辺に生息しているはずです。
これはニホンヤモリではないのでしょうか。

日本に生息するヤモリ14種のうち,近畿に棲むヤモリはニホンヤモリとタワヤモリの2種類。
ニホンヤモリでないとするとタワヤモリということになるのですが,図鑑に載っている写真はあまり似ていません。
念のためにネットでタワヤモリの色々な画像を見てみると,タワヤモリの黒っぽい個体はよく似ています。

タワヤモリは,瀬戸内海を中心とした西日本に分布し,海岸や丘陵地の岩場に生息しているそうです。
生息場所が岩場というのは今回の発見場所に合致します。

北隆館『原色爬虫類・両生類検索図鑑』(2011年)には,タワヤモリについて次のように書いてありました。

[分布]近畿地方(和歌山県,大阪府,兵庫県),中国地方(岡山県,広島県,山口県),四国全県,九州(大分県,宮崎県)。

[特徴]指下板は2分せず,指全体に広がることや,前後肢とも第1指の爪を欠くなどはニホンヤモリと同様だが,胴・四肢の背面には大型の顆粒状鱗はない。側肛疣は単一の大型鱗からなり,雄は雌と同様に前肛孔がない。

[生態]自然環境が残されている海岸の岩場や低地・丘陵地で松や照葉樹林のウバメガシなどの植生の比較的乾燥した岩場に生息。また,そうした環境に隣接した民家や神社・倉庫などでもみかけ,二ホンヤモリと混生する場合もある。市街地ではみかけない。日中は岩の隙間や割れ目に潜み,その出入口で日光浴や日陰で活動していることもある。活動は主に夜間行い,地表性の小さな無脊椎動物を捕食する。

[その他]和名はタイプ標本の香川県多和村に由来。

特徴として「胴・四肢の背面には大型の顆粒状鱗はない」とあり,これがニホンヤモリと見分けるポイントになるようです。
[写真6]は,背中の模様を拡大したもの。
不鮮明ではっきりしませんが,小さな鱗が並んでいます。
そのなかには大きなものもいくつかありますね。

それと気になるのは,分布域に近畿地方は入っているものの,「京都府」が含まれていないことです。
タワヤモリは日本固有種で,瀬戸内海沿岸の岩場を中心に分布しているものです。
内陸部の京都にまで進出しているでしょうか……。

色々と考えていると,やはりタワヤモリではなくニホンヤモリのような気もします。

こういう時には,現物が捕まえておけばよかったと,いつも後悔しています。