動物園の外塀にヒトエグモがいました。[写真1]
以前に見つけた場所と同じところです。(→2007年9月22日,→2009年10月18日)
見つけたときから,肢が1本とれていました。
ヒトエグモは日本と韓国にだけ生息する採取例の少ないクモです。
日本では京都府,大阪府,奈良県の狭い地域でのみ採取されています。
ジョロウグモやコガネグモなどは雄が雌に比べて極端に小さく,別な種類かと思うほど形態に違いがありますが,ヒトエグモは雌雄の大きさや形態的に大きな違いはないようです。
保育社『原色日本クモ類図鑑』(1986年)には,クモの一般的な雌雄の見分け方について次のように書いてありました。
雌(female) 触肢の先が細く終わり,何らの構造がない。体はいっぱんに大きい。
雄(male) 触肢の先がふくらみ,複雑な構造が見える。体はいっぱんに小さい。
[写真4]は,今回の個体と前回の個体の触肢を比較したものです。
上が今回,下が前回のもの。
前回の個体の触肢が細いのに対し,今回のものは先端がふくらんでいることがわかります。
前回のものが雌,今回のものが雄のようです。
しかし前回の個体には,腹部下面前方にあるはずの外雌器らしきものが見当たりません。[写真6]
前書に「幼体・成体の見分けかた」として,次のように書いてありました。
幼 ♂では触肢の先がふくらんでいるだけで,何らの構造が見えない。
♀では腹部下面前方に外雌器が見えない。
成 ♂では触肢の先端に複雑な構造が見える。
♀では外雌器が開口し,肉眼ではその部分が濃い褐色に見えるものが多い。
多分前回のものはまだ幼体であったため,外雌器が見えなかったのだと思います。
雄の触肢の先端がふくらんでいるのは,そこに精液を蓄えるためだそうです。
雄の触肢は性器だったのですね。
クモの交接は,雄が触肢を雌の生殖孔へ差しこみ,精液を注入するという形をとります。
前書には,次のように書いてありました。
3.交渉
クモは交尾という形をとらない。成熟した♂は,精網上に垂らした精液を触肢の中の容精体に吸いこみ,♀を訪問する。精液を持参した♂は♀の生殖門に両触肢同時に,あるいは交互に栓子(注射針の役目)を挿入して精液を注入する。この方法にはいろんなタイプが知られている。精液を提供した♂は,すぐ逃げなければ♀の餌になることが多い。