• オドリコソウ
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オドリコソウの花が咲いています。

花笠をかぶって踊る人の姿に擬せられる花の形は,唇形(しんけい)といわれ,シソ科の花に共通する形です。
[写真5]はオドリコソウの花を縦に切った断面です。

みんな同じような花の形をしているシソ科の花のなかで,オドリコソウの花が特に踊り子を連想させるのは,花が姿勢よく立って咲く上に,上唇がほかの部位より大きいからだと思います。

大きく覆いかぶさった上唇から花笠をイメージすると,下唇は手をあげて踊る際に翻る着物の袖に見えてきます。
ぐるっと輪になって咲く様子は,やぐらの上に華やかに並ぶ踊り子でしょうか。

オドリコソウには赤花と白花があります。
写真[3]の上が赤花,下が白花です。
同じ場所に並んで咲いていました。
よく見ると,赤花は茎も赤いですね。
オドリコソウの名前にはやはり赤花のほうが似合うような気がしますね。

[写真4]は,オドリコソウとヒメオドリコソウの花を比較したものです。
ヒメオドリコソウは明治時代に日本に入ってきた外来植物です。
オドリコソウの花を小さくしたような花をつけるので,「姫」踊子草の名がつけられました。

植物の名前には,小さなものには「姫」,大きなものには「鬼」をつける習慣があります。
たまたま在来のオドリコソウより小さかったのでつけられた名前ですが,「姫踊子草」とは優雅な名前ですよね。
これが「鬼踊子草」だったら,どんな花だったでしょうか。

オドリコソウの花の形は,トラマルハナバチと特に相性が良いそうです。
北隆館『山里の山草ウォッチング』(1991年)には次のように書いてありました。

 オドリコソウは花笠をかぶり輪になって踊る娘を連想させる。花は,対になってつく葉の基部に,茎を背に8~12個が輪を作っている。花冠は長さ25mmほどで,花笠にあたる上唇は大きく,花の前方までせり出し,雄しべ雌しべの先端を覆っている。下唇は複雑に分裂している。トラマルハナバチの訪花の様子を見ると,ハチと花が腕を組んで踊るかのようにぴったりと組み合っている。まさに息の合ったパートナー同士という感がある。下唇の複雑な分裂は,パートナーであるトラマルハナバチの肢掛かりとして役立っていると見てよいだろう。
 このときトラマルハナバチは花冠の奥に口吻をのばして蜜を得,オドリコンウの葯と柱頭はハチの背に触れ花粉が授受される。下記の調査の結果,訪れた昆虫の55.6%までがトラマルハナバチであり,主要なパートナーであることを物語っていた。

「下記の調査」というのは,秋田県で実施された調査です。
京都でも,オドリコソウの主要なパートナーはトラマルハナバチなのでしょうか。
私がオドリコソウの花を見るのはいつも早朝なので,虫が吸蜜している姿は見たことがありません。

[写真6]は茎の断面です。
四角形をしていますね。
シソ科の植物の多くは四角形の茎をもっています。
力学的には,断面が丸い管と四角い管とでは,丸い管のほうが強いと習ったような気がするのですが,四角形の茎というのは強度的にどうなのでしょうか。

前記の本には,茎と根の形について次のように書いてありました。

 オドリコソウやホトケノザなど,シソ科のなかまは茎の断面が四角形をしている。4つの角の部分に硬い脈が通って茎になっているのである。多くの植物の場合,茎の断面は円形をしていて,茎が風などで曲げられたときに,あらゆる方向に対して同じ強さを持つようになっている。こうして考えると,四角形の断面をもつ茎の場合は,強い方向と弱い方向が存在して良くないように思われる。しかし,力学的に分析すると,実は正多角形の茎の場合もどの方向に曲げられても茎の強さは同じなのである。つまり,四角形の茎が存在しても良いことになる。さらに,カヤツリグサのように正三角形の茎が存在するのも不思議なことではないのだ。また,力学的には,角の部分に集中して硬い組織がある方が,曲げられたときに強いのである。
 このように茎の形としてはいろいろな形のものが存在するが,根の形ではどうだろうか。根は主に周りの水や土からの圧力を受ける。そのような場合,表面積が最も小さくなる円形が最も強い。こうして,根の断面は,ほとんどすべての植物が円形になっているのである。つまり四角形の断面をもった根は存在しないというわけなのだ。