ヌスビトハギの花が咲いています。[写真1][写真2]
実には表面にかぎ形をした細かな毛がたくさんあり,いわゆる引っ付き虫の一種として昔からなじみのある植物です。
しかし最近では,在来種のヌスビトハギよりは,外来種のアレチヌスビトハギの方をよく見かけます。
散歩コースには,毎年ヌスビトハギの花が咲く一角がありますが,見かけるのはその箇所だけで,他で見かけるのはアレチヌスビトハギばかりです。
もっとも,どちらの花がきれいかというと,外来種のアレチヌスビトハギの方ですね。
アレチヌスビトハギの花の方が,在来種のヌスビトハギの花より大きくて華やかです。
特にこの場所は日陰の藪で,花も葉も傷んでいて,日向に生き生きと咲いているアレチヌスビトハギの花と比べると見劣りします。
『牧野新日本植物図鑑』(1970年)には,ヌスビトハギについて次のように書いてありました。
各地の山野の林下に多くはえる多年生草本,根はかたく木質である。茎は直立または斜上して高さ60~90cmぐらいになる。上部で分枝して,稜が走り,紫黒色となる。葉は互生して長い葉柄があり, 3出複葉,小葉は卵形,長卵形あるいは卵状のひし形,先端は鋭尖形,基部は円形または鈍形で短柄があり,長さ4~8cm,幅2.5~4cm,頂小葉が最大である。裏面の脈上には毛がある。秋に葉脇から長い花軸を出し,総状花序をつけ,淡紅色,あるいは白色の小形蝶形花をまばらにつける。時には多少複総状花序になる。花序は柄とともに長さ30cmぐらい。花は長さ3~4mmぐらい,長さ5~10mmぐらいの花柄をもつ。がくの先は低い歯状に裂ける。豆果は長さ2~8mmぐらい,2節があり,節は半月形で中に1個の種子を生ずる。表面に短かいかぎ形の毛があり,衣服等につきやすく,種子を広く散布するのに好都合である。
「根はかたく木質である」とあります。
根までは確認していませんが,太くなった茎はかなり木質です。
折ると,ぽきりという感じで,木の枝のようです。
アレチヌスビトハギの茎が折ろうとするとクニっとつぶれてしまうのと対照的です。
葉は「互生して長い葉柄があり, 3出複葉」
[写真3]は葉の表面,[写真4]は裏面です。
葉柄は長く,基部には針状披針形の托葉があります。[写真4]
実は「2節があり,節は半月形で中に1個の種子を生ずる。表面に短かいかぎ形の毛があり,衣服等につきやすく,種子を広く散布するのに好都合である。」
[写真6]は,ヌスビトハギとアレチヌスビトハギの実。
上の4節連なっているのがアレチヌスビトハギ。
下の2節のものがヌスビトハギ。
この形が,盗人の足跡に似ていることから盗人萩の名がついたそうです。
次のように書いてありました。
〔日本名〕盗人萩。泥棒が室内に侵入する時,足音のしないように,足の裏の外側を使って歩くその足跡に,豆果の形が似ているというのでこの名がついた。
実の形は,つま先だった時の形だと思っていましたが,よく読むと「足の裏側の外側を使って歩くその足跡」とあります。
泥棒がぬき足さし足で歩くときには,つま先だって歩くというのが一般人の想像なのですが,「足の裏側の外側を使って歩く」というのはプロの技なのでしょうか。
牧野富太郎の盗人足跡説について,『朝日百科 植物の世界』(1997年)には次のように書いてありました。
牧野富太郎は大正6 (1917)年,『植物研究雑誌』第1巻6号に, 「ぬすびとはぎ卜ハ何故(なぜ)ニ云(い)フ乎(か)」と題する盗人足跡説を発表し,ヌスピト八ギの名の由来を,果実の形が盗人の足跡に似ているためと推定した。同じような果実をもつ同属のフジカンゾウに,ヌスピトノアシの別名があることからの類推である。
この説に対して、 「ヌスビト~」は,気づかない間にその果実が体に取りつく種類をさす形容語であるから,ヌスピト八ギの名前もこの性質に由来するという説もある。