庭の草むしりをしていると,キツネノマゴに花が咲いていました。
名前にキツネとついている植物はたくさんあります。
キツネノエフデ,キツネノオ,キツネノカミソリ,キツネノテブクロ,キツネノロウソク……。
名前にキツネとつくだけで,優しい感じがしますね。
キツネノテブクロなどは,新美南吉の童話「手袋を買いに」を連想し,ほのぼのとした気持ちになります。
「キツネの孫」の名前の由来については,小さな花を密集させた穂状(すいじょう)花序(かじょ)をキツネの尻尾に見立てたらしいというだけで,本当のところはよくわからないそうです。
「牧野新日本植物図鑑」にも名前の由来は載っていませんでした。
長田武正『原色野草観察検索図鑑』(1981年)には,キツネノマゴについて次のように書いてありました。
人里の道ばたに普通な1年草。基部が地に倒れて多くの枝を出し,高さ10~40cm。葉は対生してきよ歯はない。花は密集して長さ2~5cmの穂となり,がくとほぼ同長の苞がまじるので穂がこみ合って見える。花冠は長さ7mm,上下2唇に分かれ,上唇は白色,下唇は淡紅色で白斑がある。おしべは2個,それぞれのおしべに縦に並んだ葯室2があって,下方の葯室には距がつく。花柱の先はかすかに2裂する。
葯には距があると書いてあります。
[写真4]を見ると,確かに雄しべには葯室が縦に二つ並んでいて,下の葯室からは,白いものが下に突き出しています。
これが距(きょ)です。
距とは花冠やがくの一部が管状に突き出したものをいい,距を持つ花は少なくないのですが,葯に距がある花はあまりないと思います。
この距は何のためにあるのでしょうか。
『フィールドウオッチング 8』(1992年・北隆館)には,次のように書いてありました。
2本の雄しべは左右から花冠の先端まで伸びてきてそこに葯をつけている。葯は2個の葯室に別れており,それぞれの葯室は防災頭巾のような形で下に白い柄のような突起がある。昆虫に特ち去られて花粉が少なくなった花を使い,昆虫が訪れた様子を想定しピンセットの先を花に挿入してみた。ピンセットが突起を押すと,葯室の中から花粉が出てきた。突起を押すと葯室がひしゃげ,葯室の容積が減って花粉が押し出されることになるらしい。