前回(→冬の満月はなぜ高く昇るのか)に続いて今回は,空高く昇る月は満月だけなのかについて。

冬の満月は確かに天頂近くまで昇ります。
与謝蕪村の句「月天心貧しき町を通りけり」は,空の真中で輝く満月に照らし出された町の景色を詠んだものといわれています。
月の光による俗界の美化がねらいだとか。
「天心」とは「空のまんなか」です(『日本国語大辞典』小学館)。

月は一般的に秋の季語で,上句も『蕪村句集 秋』に収められています。
これが秋の情景を詠んだものだとすると,「月天心」はどんな月なのでしょうか。

次の図は,2010年(京都)における月の南中高度が最も高くなった日の日時と月の形です。
南中高度が高い月の変化
上図を見ると,冬至前後には満月が,夏至前後には新月が,春分前後には上弦の月が,秋分前後には下弦の月が,それぞれ南中高度が最も高い月になるようです。

前句が秋の句だとすると,「月天心」は下弦の月で,しかも時刻は朝,日の出後ということになります。
それはないですね。
前句の「月天心」はやはり満月でなければなりません。
そうすると季節は冬ということなります。

下図のように,地球の回転軸が傾いている側に月が位置すると,もっとも南中高度が高くなります。
月は約29.5日で地球の周りを一周するので,だいたい一月おきに必ず下図の位置に来るはずです。
南中高度が高くなる月の位置
この状態で地球は太陽の周りを公転しているので,太陽,地球,月の位置関係は変化し,翌月に南中高度が最も高くなる位置に月が来たときには,地球から見える月の形は先月のものとは変化しています。

上図の3つの軌道は,真ん中の軌道が地球の公転軌道面(黄道)。
月の公転軌道面(白道)は黄道面に対して5.15°傾いています。
同じ季節の満月の南中高度も,年によって最大10°(≒5.15°×2)変化します。