動物園の塀に,オニグモが網を張っていました。[写真1][写真2]
カメラを近づけすぎたら逃げるかなと思ったのですが,すぐそばまで寄っても,全然反応を示しません。
クモは8個も眼をもっているので,視覚は優れているような気がしますが,実は,クモの視覚は一般的にあまりよくないようです。
平凡社『動物大百科 第15巻 昆虫』(1987年)には,次のように書いてありました。
クモの眼は頭胸部の前の方についている。昆虫や甲殻類などと違い,すべて単眼である。ほとんどのクモは,この単眼を8個もっている。しかし一部のクモを除いて,一般に視覚は悪く,ほとんどの種は,周囲の気配を,空気,地面,水面,網などの振動をとおして〈聞いて〉いる。ハエトリグモ類とメダマグモ類の視覚はきわめて発達している。
造網性のクモは視覚が弱く,徘徊性のクモは視覚が発達しているということのようです。
確かに振動には敏感で,ほんの少し網に触れただけで,とたんに反応しました。
振動の種類から,餌が引っ掛かったのではなく,外敵がやったきたとわかるのでしょうか,そそくさと網を上って煉瓦のはりだしに身をひそめてしまいました。[写真3]
新海栄一著『日本のクモ』(2006年)には,オニグモについて次のように書いてありました。
体長:♀20~30mm ♂15~20mm
出現期:6~10月
網型:正常円網
分布:北海道,本州(5),四国,九州,南西諸島
家の周りに見られる黒色の大型グモ。人家,神社,寺院など建物の周囲に多い。軒下に大型の正常円網を張り,昼間は軒下や建物の隅に潜んでいる。夕方から活動を始め,張ってあった網を,破損の状態によって2~3日お気に張り替える。
この個体は体長20mmほどなので,♀としては小さいようです。
クモの雌雄は,触肢の形で見分けることができます。
触肢の先が細ければ雌,ふくらんでいれば雄。
雄の触肢は,精子を一時的に貯えておく生殖器官となっているのです。
平凡社『動物大百科 第15巻 昆虫』(1987年)には,次のように書いてありました。
クモのオスは,メスより小さく,体が細く,歩脚がやや長いのが一般的であるが,成熟したオスであれば触肢(しょくし)の先に,メスにはみられない複雑な構造をもった生殖器が現れるので,一見して区別できる。原始的なトタテグモ亜目(あもく)や,クモ亜目のなかでも比較的原始的なクモでは,生殖器はもっとも単純な形をしている。触肢の?節(ふせつ)にはタマネギのような形をした生殖球がついていて,その内部には先細りの容精体(ようせいたい)が,コイル状に収まっている。容精体はちょうどスポイトのようなはたらきをする。オスは成熟すると,特別な精網(せいもう)という精液の受け皿を糸でつくり,そこへ射精する。そして触肢の容精体で,その精液を吸い取り,その中にたくわえでおく。交尾の際,オスはこの生殖球の先端をメスの生殖器に挿入(そうにゅう)する。原始的なクモでは,メスの交接口と産卵口がいっしょになっている。
より進化したクモ亜目では,オスの触肢の構造はずっと複雑になる。風船のようにふくらましうるやわらかな組織と,それをとりまく種々のかたい付属の組織とが組み合わさった形になっているのだ。交尾の際,血圧によって容精体がふくらむと,メスの生殖器の外側の構造(外雌器(がいしき)と呼ばれ,表皮がかたく板のようになっており,場合によっては複維なくぼみや突起(とっき)をそなえる)と,オスの触肢のかたい付属器とがかみ合って,オスの触肢がメスの生殖器からはずれないようになる。高等なクモのメスは, 3つの生殖口をもつ。そのうち2つは対(つい)になっている交接口で,オスの触肢の生殖球の先端(栓子(せんし)という)を受け入れるところであり,もう1つは卵が産み出される産卵口である。