草取りをしているときに,葉っぱの上に泥で作られた小さな壺があるのに気付きました。
トックリバチの巣です。
近くの壁につけられた巣が,何かの拍子に落ちたようです。

口が開いているので,すでに羽化して脱出した後だろうと思っていましたが,巣を割ってみてびっくりです。
中にはガの幼虫が2匹入っていました。
それも生きています。

[写真5]は,巣から取り出したガの幼虫。
刺激すると,身をくねらせる程度に生きています。
かといって逃げ出すほどの力はなく,絶妙な麻酔のかけ具合です。
孵化したトックリバチの幼虫は,これらを餌として成長します。

卵は,細い糸でつりさげられています。[写真4]
[写真4]には,卵の下に黒い小さな粒がいくつもあるのが写っています。
これは,閉じ込められたガの幼虫が排泄した糞ではないかと思うのですが。

翌日,見てみると,卵が孵化していました。
幼虫は,卵と同じ色,大きさをしていて,非常に紛らわしいです。[写真6]

小田英智・小川宏著『カリバチ観察事典』(1996年)によると,トックリバチは次の順番で巣作りをします。
①壺型をした土製の巣をつくる
②壺のなかに卵を1個産みつける。卵は巣の天井から細い糸でつりさげられる。
③ガの幼虫を狩り,壺のなかに運び込む。
④壺が獲物でいっぱいになると,泥で入り口を閉じる。

次のように書いてありました。

 トックリバチの母親は,産卵がすむと狩りをはじめます。獲物はシヤクガなどの幼虫です。獲物をみつけると,獲物の頭をあごでおさえ,毒針をさして麻酔します。つかまえた獲物を巣にはこんできた母親バチは,大あこの先をピンセットのようにつかい,せまいつぼの口からなかにいれます。なんどもなんども獲物をはこび,つぼがいっぱいになるまでためこみます。獲物がいっぱいになると,母親パチは,どろの玉をはこんできて,つぼの入口をとじます。
 つぼのなかにのこされた卵は,産卵から2日ほどで幼虫にふ化します。卵の殻をやぶってはいだした幼虫は,母親が用意してくれたえさをたべて成長します。すっかり成長した幼虫は,つぼの巣のなかでマユをつくり,サナギになります。夏にそだつトックリバチは,卵から2週間ほどで成虫になります。

壺のなかに捕まえた獲物が2匹入っていて,壺の入口がまだふさがれていなかったということは,母親バチが獲物を壺に運び入れている途中だったようです。
そういえば,黒い体に,黄色い縞模様をしたハチが辺りをうろうろと飛び回っていたような。

壺型の巣に,卵と,幼虫が成長するのに必要な餌を一緒に閉じ込めて,泥で蓋をして密閉する。
これで子どもの安全は完璧に確保されたように思えますが,そうでもないようです。
平凡社『日本動物大百科 10』(1998年)には,次のように書いてありました。

ドロバチ類の巣は,捕食者たちにとって食料倉庫のようなものである。内部へ侵入さえできれば,たんまりと餌(えさ)にありつける。実際,このようなこそ泥稼業に特殊化したハエやハチがたくさんいる。京都での調査では,6種のドロパチに対して合計9種の捕食者(もしくは捕食寄生者)がいた。

このような捕食者たちの攻撃にあわずに,ぶじに成虫まで成育できる個体の割合は,単独性ドロバチ類では15~65%,亜社会性ドロバチ類では60~78%であった。