ここ数日,家の前のコナラの木から,ドングリをつけた小枝がたくさん落ちてきます。[写真1]
秋にドングリが落ちてくるのは当然なのですが,それとは別に,毎年今の時期に,まだ成熟していない若い実が枝ごと落ちてくるのは何故でしょうか。
2003年9月9日
2003年8月28日
2002年8月9日

長い間,その理由がわからなかったのですが,たまたま見ていたテレビの番組で謎が解けました。
番組の内容は,コナラの枝が何者かによって切り落とされ,あたり一面に散乱している,その犯人を探すというものでした。
犯人は「チョッキリ」でした。

チョッキリとは,「ちょん切る」からきた名前で,植物に卵を産みつけた後,産みつけた部分を切り落とす習性を持つ,ゾウムシの仲間です。
正確には,ゾウムシ上科オトシブミ科チョッキリゾウムシ亜科に属する昆虫で,日本産は約60種が記録されています。(亜科ではなくてチョッキリゾウムシ科に独立させる考え方もあるようです)
新芽,新枝,果実,葉身などに産卵して切り落とすものや,オトシブミのように揺籃をつくるものなどがいます。
その中でドングリに産卵し,切り落とすのは,ハイイロチョッキリだけです。

切り落とされた小枝の切り口を見ると,一見ハサミで切り落としたような,きれいな切り口に見えますが,拡大して見るとそうではありません。[写真3]
1cmにみたない小さな虫が,時間をかけて食いちぎった,苦労がしのばれる切り口をしています。

ドングリには,産卵のために開けられた穴が,1個あります。
穴が開いている位置は殻斗のへり近くで,みな同じ位置にあります。[写真4]

もう少し下の,殻斗に覆われていない部分に穴を開ければ,楽に開けられるような気がしますが,なぜ,わざわざ硬い殻斗を貫いて穴をあけるのでしょうか。
高柳芳恵著『どんぐりの穴のひみつ』(2006年)には,つぎのように書いてありました。

この観察で,ハイイロチョッキリのお母さんが,殻斗を選んで穴をあける理由がわかりました。
 穴をふさぐ材料が必要だったのです!まるで,ビンにコルク栓をするかのように,殻斗の表面のやわらかな毛をけずりとっては,穴につめることをくりかえしていました。たとえ,殻斗に穴をあけるのがたいへんでも,乾燥や外敵から子どもを守るために,必要な仕事だったのでしょう。

半分に切って,中を見てみました。[写真5][写真6]
深さ2mmほどの穴が開けられ,奥に卵が一つ産み付けられています。

この後,次のような経過をたどって成虫になります。
・卵は4日~6日で孵化し,幼虫はドングリの中身を食べて育つ。
・3~4週間後,大きく育った幼虫はドングリに穴をあけて脱出し,土の中にもぐる。
・幼虫は土の中で冬を越し,翌年初夏に蛹化,羽化し,地上へと這い出てくる。

[写真2]は,ハイイロチョッキリの成虫です。
たまたま,道を歩いている虫を捕まえたら,ハイイロチョッキリでした。