道を歩いていた,小さなゾウムシを捕まえました。
ゾウムシは,「象虫」という名前のせいもあるのでしょうが,何となく親しみのわく虫ですね。

図鑑で調べてみると,チョッキリゾウムシのなかまのハイイロチョッキリでした。
ハイイロチョッキリは,コナラやクヌギの若い実に穴をあけて産卵し,枝先ごと切り落とす習性があります。
ちょうど今の時期,家の前にあるコナラの木の下には,ハイイロチョッキリによって切り落とされた小枝がたくさん落ちています。[写真6]
(→2010年8月23日

北隆館『新訂 原色昆虫大図鑑 甲虫篇』(2007年)には,ハイイロチョッキリについて次のように書いてありました。

体長9mm内外。体は黒~暗褐色で微かな銅青色の光沢がある。体表には灰黄色の毛を密生し,背面ではこれに暗色の立毛を加える。吻は長く縦皺があり,胸背は粗く皺状。上翅の点刻列は粗大で深く,間室には強い点刻と小点刻を具える。♂は胸側前方に鋭い棘状突起がある。

・体長9mm内外
この個体の体長も,口吻を含めて約9mmでした。

・体は黒~暗褐色で微かな銅青色の光沢がある
体色は黒色。
毛に覆われているので,体の「微かな銅青色の光沢」までは確認できませんでした。

・体表には灰黄色の毛を密生し,背面ではこれに暗色の立毛を加える
[写真1][写真2]はデジカメで撮影したもの,[写真3][写真4]はスキャナーで撮影したもの。
色味が違いますが,実物の色に近いのは[写真3][写真4]の方です。
ハイイロチョッキリの全体的な色の印象は,名前のとおり灰色です。

・吻は長く縦皺があり
吻とは,動物の口が長く突き出す形状をしているものをいいます。
通常,甲虫の複眼と複眼の間には,上唇,大顎,小顎,下唇などの器官が複雑に組み合わさった,口があります。
ハイイロチョッキリは,それらの器官がそのままセットになって前に突き出し,細長い吻の先に収まってしまっています。[写真5]
触角も一緒に前の方に移動して,吻の途中に位置しているので,奇異な感じを受けます。

ゾウムシ類の吻について,平凡社『日本動物大百科 第10巻 昆虫Ⅲ』(1998年)には,次のように書いてありました。

ゾウムシ類の特徴は,頭部が複眼の前で細長く伸びて吻(ふん)となることで,その形がゾウの鼻に似ていることに名前は由来する。伸長するのは複眼と口部のあいだで,吻の先にはほかの昆虫同様に大あご,小あご,上唇(じょうしん),下唇が小さくなって収まっている。吻は元来,幼虫の食物となる植物組織に産卵孔を掘る道具で,メスは産卵対象となる植物を触角(しょっかく)で十分に調べたのち,吻で孔をあけ,体をまわしてその孔に腹端を当て,産卵管を差し込んで卵を産み込む。一般に吻の長いものほど長い産卵管をもっている。

・上翅の点刻列は粗大で深く,間室には強い点刻と小点刻を具える
上翅には毛が密生しているため,点刻は確認できませんでした。
間室とは,点刻列と点刻列の間のことをいいます。
(甲虫の上翅には,通常9~10列の点刻列または条溝とそれに挟まれる間室があります。)

・♂は胸側前方に鋭い棘状突起がある
この個体には,棘状突起があるので♂です。[写真5]

棘状突起は何のためにあるのでしょうか。
前書には,チョッキリゾウムシ類のオスについて,次のように書いてありました。

オスにおいて闘争用の武装,装甲と考えられるものが発達するものがあり,モモチョッキリ,ハマキチョッキリ類,カバイクビチョッキリでは,実際にオスが闘争している場面が観察されている。

棘状突起は「闘争用の武装」なのでしょうか。