ジョウビタキ(♂)がサクラの枝にとまっていました。
赤茶色の色合いが目に付きます。
オス同士で争う時には,お互いにこの赤い色を誇示するディスプレイをするそうです。
平凡社『日本動物大百科 第4巻 鳥類Ⅱ』(1997年)には,次のように書いてありました。

越冬地での闘いには体を水平位にして尾羽を開いて下げ,赤い色を誇示するディスプレイをするが,繁殖期の闘いや,メスへの巣場所の誇示に同じディスプレイをするものと思われる。

メスはもっと淡い色をしています。[写真4](→2009/10/30
オスはメスの気を引くために赤く色づき,メスは抱卵時に捕食者の目につかないよう目立たない地味な色合いをしているというわけです。

ジョウビタキは冬鳥として全国に渡来し,春に繁殖地であるユーラシアの東部中緯度地方に戻ってゆきます。
『山渓カラー名鑑 日本の野鳥』(1996年)には,次のように書いてありました。

冬の庭に縄張りを構える,翼に白い斑のある鳥。中国西部からウスリー,サハリンにかけての地方で繁殖し,日本には冬鳥として全国に普通に渡来し,主に積雪の少ない地方で越冬する。春はツグミなどより早く渡去し,4月にはほとんど姿を見ない。

「春はツグミなどより早く渡去し,4月にはほとんど姿を見ない。」ので,もうすぐ日本海を越えて,ウスリー,サハリンへと渡ってゆくのでしょう。
しかし不思議なのですが,ジョウビタキやガン,カモ,ツグミなど日本海を渡って飛来する渡り鳥は,どうして1000kmもの距離の海を越えようとするのでしょうか。
「本能」を理由にするにしても,どうしてこのような一見無謀な本能が獲得されたのでしょう。

ヨーロッパでも渡り鳥が地中海を越えてアフリカに渡る現象は不思議に思われているようで,コリン・タッジ著『鳥』(2012年)には,このことについて次のように書いてありました。

ところで,そもそも鳥類はどのようにしてこのような本能や優れた能力を進化させたのだろうか?ほんの少しだけ南下する小規模の渡りや,たとえ長距離でも海を越えない移動ならば,答えは簡単に出そうだ。冬を迎える前に日差しが強く暖かい地域へ移動した祖先の習性を子孫が受け継いだのだろう。

 

しかし,鳥類の渡りには,このように一歩一歩慎重に進化してきたと考えるには手が込み過ぎている部分や大胆過ぎる部分が見られる。ヨーロッパの鳴禽類はなぜこんなに多くの個体がアフリカへ渡るために,危険を省みずに地中海へ飛び出していくのだろうか? 南半球の温暖な地域へ行くために,なぜサハラ砂漠を横断するのだろうか? 

 

こうした大胆な行動には地球の歴史が一役買っていることは確かだ。鳥類の誕生から1億4000万年,現生の鳥類に限っても8000万年が経っているが,その間に大陸の位置は大きう変わった。例えば,地中海は現在のような大きな海であり続けたわけではなかった。中新世後期(およそ600万年前)の地中海は海ではなく陸地だった。しかし,今から450万年ほど前になると,大西洋の海水がジブラルタル海峡から堰を切ったように流れ込み始め,現在のような地中海が誕生したのである。数百万年前までは,溺れるどころか足を濡らす心配もなく,ヨーロッパからアフリカへ渡ることができたのだ。一気に飛ばなければならない距離は,地中海に海水が満ちてくるに従って,徐々に伸びてきたが,初めのうちは,向こう岸が見えていただろう。

なるほど,日本海も地中海と同じように徐々に海域を拡大しながら形成されたという歴史があります。
鳥たちは日本が大陸と陸続きだった時代に身につけた渡りの習慣を,徐々にその距離を伸ばすことにより維持したということのようです。

それにしてもジョウビタキやツグミのような小さな体で,年に2回も日本海を渡るのは過酷ですよね。
人間にとっては不合理と思われる鳥たちの渡りも,続けているということは鳥たちにとっては合理的なことなのでしょう。