歩道一面にオオシマザクラの実が落ちて,踏みつぶされています。[写真1]
近くのヤマザクラの木にもたくさんの実がついています。
しかしソメイヨシノの木には,ポツリポツリとまばらに実がついているだけです。
ソメイヨシノに実がつきにくいのはなぜでしょうか。

サクラのなかまは,同じ木に咲いている花同士では結実しない性質をもっています。
これを自家不和合性といい,サクラに限らず,両性花をつける植物の半数以上が自家不和合性を示すといわれています。

全国に植えられているソメイヨシノは,もともとは一本であった木から挿し木でふやされたものです。
そのため全てのソメイヨシノは同一の遺伝情報を持つ,いわばクローンです。(クローンと言う言葉自体が,本来挿し木を意味するそうです)
ソメイヨシノの花粉が別のソメイヨシノの木に運ばれて雌しべにくっついたとしても,花粉管を伸ばす段階で相手が同じ遺伝子を持っていることに気づき,花粉管を伸ばすのをやめてしまいます。
ソメイヨシノ同士では受精しないのです。

しかし,近くにオオシマザクラやヤマザクラなど近縁の木があると,それらの花粉が運ばれて受精し結実します。
当然,できた種子は純粋なソメイヨシノではなく,雑種ということになります。
ソメイヨシノの果実について,『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,結実することを前提に次のように書いてあります。

核果は球形,径7~8mm,紫黒色に熟し,多汁である。

植物の自家不和合性について,『朝日百科 植物の世界』(1997年)には,次のように書いてありました。

花粉が雌しべの柱頭につき,そこから雌しべの中を花粉管が伸長する間に,自己の雌しべか非自己の雌しべかが見分けられ,自己であれば花粉管の伸長は止まるが,非自己であれば花粉管が伸長して卵に到達し,受精・結実する。こうした仕組みで植物は自己と非自己を見分けているのである。植物のこの現象を自家不和合性という。
 自家不和合性は花粉管が雌しべの中を伸長するときに働く現象である。雌しべは被子植物に進化したときにつくられた器官であるから,被子植物特有の性質といってよく,自家不和合性は被子植物が近親間の交雑を抑制するためのひとつの機構である。

オオシマザクラは甘く粒も大きいのでそのまま食べたりジャムにしたりできますが,ヤマザクラとソメイヨシノは甘味とともに苦味もあり粒も小さいので食用には適していないでしょうね。
オオシマザクラの実でジャムを作った時の記事→2009年6月3日