目の前の地面を急ぎ足ですすむ虫がいました。
頭と胸の部分が金属色に輝いています。
カメラを取り出す暇はないので,とりあえず確保しました。
オサムシのなかまのようです。

図鑑で調べると,スジアオゴミムシでした。
オサムシ科に属するオサムシ類やゴミムシ類をまとめてオサムシということが多いようです。
美麗種も多く,オサムシ屋といわれる一群の熱狂的な収集家が存在します。
手塚治がそうした一人であったのは有名な話です。

オサムシ類の大部分は夜行性で,身近にいる昆虫であるにもかかわらず,人目にふれることはあまりありません。
そのため採集は,「オサトラップ」や「オサ拾い」とか,土の中から冬眠中のオサムシを掘り出す「オサ掘り」といった変わった採集方法がとられています。
今回は早朝だったため,姿をあらわしたようです。

ポリ袋から取り出すときに,消毒薬のような匂いがしました。
防衛物資を噴射したようです。
オサムシのなかまは,攻撃を受けた時に化学物質を噴射して身を守る習性があります。
平凡社『日本動物大百科 第10巻 昆虫Ⅲ』(1998年)には,次のように書いてありました。

オサムシ類は攻撃を受けたときに防衛物質を噴射分泌する。分泌物質に応じて特殊な形をした多数の小型生成器官で生合成し,導管で集めて貯蔵のう(嚢)へ送り,蓄積し,攻撃者からの刺激によって分泌する。

アオゴミムシ類はメタクレゾール(消毒剤の1種)を噴射する。亜属や種によって独特の成分が検出されているものもいる。生成器官や貯蔵のうの形にも,系統分類学的に規則性が見られる。

北隆館『日本昆虫図鑑』(1956年)には,スジアオゴミムシについて次のように書いてありました。(原文は旧漢字)

体長22mm内外。体は黒色,頭及び前背板は金属光沢を有し,光線の方向により緑色乃至赤紫色を呈する。翅鞘は黒藍色であるが黒褐色のものもあり,光沢を欠く。頭には点刻並びに細皺を粗布し,触角は赤褐色,基部は黄褐色,第4節以下には黄色の短毛を密生する。頭盾の前縁及び上唇は褐色で前者は端直である。大腮は黒褐色,両鬚は赤褐色で末端はやや淡色。前背板には小点刻及び細皺を装い,中央に判然とした1縦溝があり,後縁角は円味を帯び,内方は凹陥する。翅鞘には8条の顕著な縦隆があり,間室には各1条の点刻列がある。体下は黒色,脚は黄褐色,付節・爪は赤褐色,雄の前脚付節第1,2及び第3節は膨大する。

・体長22mm内外
本個体は体長24mmでした。[写真1]

・体は黒色,頭及び前背板は金属光沢を有し,光線の方向により緑色乃至赤紫色を呈する
[写真1][写真2]

・翅鞘は黒藍色であるが黒褐色のものもあり,光沢を欠く
翅鞘(ししょう)とは,前翅がキチン化し硬くなったもの。
「光沢を欠く」とありますが,縁には緑色っぽい金属光沢がありました。[写真8]

・頭には点刻並びに細皺を粗布
[写真1]

・触角は赤褐色,基部は黄褐色,第4節以下には黄色の短毛を密生する
[写真6]

・頭盾の前縁及び上唇は褐色で前者は端直である
[写真5]

・大腮は黒褐色,両鬚は赤褐色で末端はやや淡色
[写真5][写真6]

・前背板には小点刻及び細皺を装い,中央に判然とした1縦溝があり,後縁角は円味を帯び,内方は凹陥する
[写真2]

・翅鞘には8条の顕著な縦隆があり,間室には各1条の点刻列がある
[写真7][写真8]

・体下は黒色
[写真3]

・脚は黄褐色,付節・爪は赤褐色,雄の前脚付節第1,2及び第3節は膨大する
本個体の前脚付節第1~第3節は「膨大」しているので雄です。[写真6]