ヌルデに五倍子(「フシ」とも「ゴバイシ」とも呼ぶようです)ができていました。[写真1]
赤味を帯びたモモのような手触りは,一見おいしそうな果実にみえます。
しかし何も知らずに半分に切ったりすると,悲鳴を上げるのは確実です。
空洞になった中には,びっしりと埋めつくした小さなアブラムシが,もぞもぞとうごめいているからです。[写真5]

五倍子はヌルデの葉にヌルデシロアブラムシが寄生してできる虫こぶです。
虫こぶとしての名前は,ヌルデにできる耳の形をした虫こぶなので「ヌルデミミフシ」。

ヌルデの果実は小さな核果が房状になっており,冬枯の枝に白い実の房がた垂れ下がっている様子は,ウルシやハゼノキの実によく似ています。(→2008/2/21
それも当り前で,ヌルデはウルシ科なのです。
葉もウルシ科に特徴的な奇数羽状複葉ですね。

ウルシ科の植物はかぶれるのが心配ですが,ヌルデには原因物質のウルシオールが少なく,かぶれることも少ないようです。
私はヌルデはかぶれないものと思って平気で触っていました。
ネットで調べてみると,人によってはかぶれることもあるようです。

全国農村教育協会『日本原色虫えい図鑑 』(1996年)には,ヌルデミミフシについて次のように書いてありました。

ヌルデシロアブラムシSchlechtendalia chinensis (Bell,1851)によってヌルデ複葉の翼葉に形成される虫えい。不定形~袋状の閉鎖型虫えいで,通例数個の小突起があり,細毛で被われる。黄緑色でときに赤味を帯び,長さ30~55mm程度。10月頃突起の先端部が開口する。
生態 本州では夏に虫えいが形成される。第2世代は無翅。有翅虫は10~11月に出現し,チョウチンゴケなどコケ類に移住する。チョウチンゴケに産下された幼虫は越冬し,翌年の6月中~下旬に有翅の成虫となってヌルデに戻り有性世代を産む。有性世代のメスは胎生で幹母を産むという。本種の虫えいは多量のタンニンを含むことで著名である。

・ヌルデ複葉の翼葉に形成される
[写真3]を見ると,翼葉に形成されているのが分かります。

・黄緑色でときに赤味を帯び
[写真1][写真2]の個体は赤味を帯びていますが,紅葉していることと関係があるのでしょうか。

・第2世代は無翅。有翅虫は10~11月に出現
[写真5][写真6]を見ると,無翅のものと有翅のものがほぼ同数います。

・多量のタンニンを含むことで著名
五倍子はタンニンを含むため,昔から染料や漢方薬として利用されています。
平凡社『世界大百科事典』(2007年)には,五倍子について次のように書いてありました。

幼虫の羽化前に採集したものが使われる。五倍子は虫の死体を含み,そのほかの部分の主成分はタンニン酸で50~70%,他はデンプン,蝋などである。タンニン酸はグルコースに没食子酸が5~9個ついたもので,加水分解型タンニンと呼ばれる。医薬,媒染剤などに使われる。

虫を含んだままにせずに取り除けばよいように思うのですが,虫にも薬効があるということでしょうか。