テーブルの上にあった小さな埃のかたまりが,風もないのにゆっくりと横に動きました。
よく見ると埃の下から脚がのぞいています。[写真1][写真2]
小さな虫が埃を背負っているのです。

背負っている埃を取り除いて見ると,その下から現れたのは意外にも肉食系の姿でした。
大きな顎がいかにも獰猛そうな顔をしています。[写真3]
図鑑で調べると,この虫はクサカゲロウ類の幼虫でした。
やはり肉食性で,アブラムシなどの体液を吸うそうです。

クワガタムシの大顎のように見える吸収顎(きゅうしゅうあご)は管構造になっていて,これを獲物に突き刺して体液を吸います。
学研『日本産幼虫図鑑』(2005年)には,次のように書いてありました。

ヘビトンボ目とラクダムシ目では,食物である小動物を大顎で捕獲し,それを飲み込む。一方,アミメカゲロウ目では,大顎と小顎が癒着して管構造(吸収顎)を形成し,これを獲物に刺して体液を吸う。

クサカゲロウ類が捕食するアブラムシは農作物の害虫です。
それも大量のアブラムシを捕食するので,クサカゲロウ類を生物農薬としての利用する研究が進んでいるそうです。
ネットでクサカゲロウの幼虫を検索していたところ,千葉大学のサイトに行きあたりました。(→日本産クサカゲロウ図鑑
千葉大学園芸学研究科「応用昆虫学研究グループ」となっています。
やはりこうした研究が進んでいるのですね。

この日本産クサカゲロウ図鑑を見ると,クサカゲロウ類の幼虫が全て塵を背負っているわけではなく,塵を背負わないものもいます。
掲載の33種のうち14種は,塵を背負わない種類でした。
『日本産幼虫図鑑』には,クサカゲロウ幼虫の塵載せ行動について,次のように書いてありました。

クサカゲロウ科の幼虫には,体表に鈎状の毛があって,それに塵などを付着させてカムフラージュする種と,鈎状の毛を欠き塵などを付着させない種がいる。

塵載せ型の幼虫では,自分の脱皮殻や獲物の吸い殻,カイガラムシなどのワックス,枯死した植物の破片,地衣類のかけらなどを塵として体表に載せる。塵を載せることによって,幼虫はカムフラージュをし,捕食者や寄生者から身を守っていると考えられる。また,アブラムシ(アリマキ)類やカイガラムシ類に随伴するアリ類からの攻撃を防ぐ機能も有しているかも知れない。