マツの切り株に,鮮やかな黄色い色をした塊がついていました。[写真1]
粘菌のようです。
移動しているだろう思っていましたが,数日後もまだ同じ場所にありました。
色あせて白っぽくなっています。[写真4]
さらに数日経つと,塊は壊れて黒い中身が露出していました。[写真5]

粘菌は動くものだというイメージがありましたが,粘菌のライフサイクルのなかで,動いているのが目撃されるのは変形体と呼ばれる時期のものだそうです。
今の時期,成長した変形体は子孫をつくるために倒木や落ち葉の表面に移動し,子実体(しじったい)をつくります。
黄色い塊は子実体だったのです。
この粘菌はススホコリで,子実体は黄色い色素を含んだ石灰質でおおわれています。

すぐ近くにある切り株で,別のススホコリが子実体をつくりはじめていました。[写真6]
網目状にひろがった変形体にたくさんの小さなかたまりができて,スクランブルエッグのようになっています。[写真7]

一部を切り取り,接写したのが[写真8]です。
網目状に木片を覆った様子はまるで脳神経のようで,意思があるかのようにみえます。
1973年に北アメリカで,このススホコリが大発生し,異星生物ではないかと大騒動になったことがあるそうです。
平凡社『日本変形菌類図鑑』(1995年)に,次のように書いてありました。

ススホコリは子実体形成の前に,しばしば生息場所からかなり離れたところまで這っていくことが知られている。この変形菌が1973年の春に北アメリカで起こした事件は有名である。例年になく高い湿度の影響で大発生した変形体が,子実体を作る場所を求めて突然人目につくところに次々出現した。なかには電信柱に上る変形体もあり,異星生物が地球を征服に飛来してきたと思った住民を恐怖におとしいれた。鮮黄色の大きい塊があちこちに出現し,それらがどうも動いているようだとわかったときの住民の驚きは充分に想像がつく。

ススホコリについては,次のように書いてありました。

 子実体は着合子嚢体型または屈曲子嚢体の累積した型,高さ約3cm,長さ約10cmまで,ときにずっと大きくなる。皮層は黄色でときに欠ける。擬細毛体は黄色。連結糸は無色で管状。石灰節は紡錘形で小さく,白色。胞子は反射光で暗褐色,細かいいぼ型,球形,卵形または楕円形,直径7~9μmまたは7×9μm。変形体は黄色。本種やシロススホコリは真菌 Nectriopsis violacea に汚染されると紫色に変色する。石灰節が黄色い型を,変種キフシススホコリ var.flava (Pers.) R.E.Fr. という。類似種のF.licenti Buchetは,胞子がより暗色,顕著ないば型で,より大きく9~11×9μm。発生:晩春から秋,とくに夏,腐った木の上にふつう。世界的広布種。

図鑑やネットの写真にはキフシススホコリという種類も載っていて,外観はよく似ています。
上記の説明では,キフシススホコリはススホコリの変種で,「石灰節が黄色い型」をいうそうです。
石灰節とは,子実体の内部にある細毛体の一部で,「内部に粒状の石灰が含まれて膨らんだ部分」をいいます。
ということは,外観ではススホコリか,キフシススホコリかを見分けることはできないのかもしれません。
石灰節までは確かめていないので,基本種のススホコリとしておきます。