南禅寺舟溜まりにヒシが繁茂し,濃い緑色の葉が水面を覆っています。[写真1]
よく見ると,ところどころに白い花が咲いています。[写真2]
岸から竹の棒をさし入れて,一株たぐり寄せてみました。

水底から茎が伸びているのかと思っていたら,そうではなくて,隣のロゼットから枝が伸びてつながっています。
ユキノシタなどの送出枝のように,水面に茎を伸ばして,次々にロゼットを増やしているようです。

『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,ヒシについて次のように書いてありました。

一年生草本,池や沼にはえ,茎は泥の中にあった前年の実から芽を出し,細長く水の浅い深いに従って長短があり,基部は泥の中に根を下し,上部は水面に達し,先端に多数の葉が集って付き,水面に浮かび,多数集って広く水面をおおう。節には水中根がある。葉は横の直径6cm位,ひし形状三角形できょ歯があるが,下部は全縁,表面は光沢,裏面には隆起脈があり毛がはえ,葉柄にはふくらんだ部分があってカエルのもものようである。夏に葉間に白色の柄のある花を開く。がく片4個,花弁4個,雄しべ4本,花柱1本。花の中心にへりに歯のある黄色い花盤があり,蜜を出す。子房は半下位。後に両側にとげのある核果を結び,中に多肉子葉の種子が1個ある。

・一年生草本
冬は枯れて,水面から姿を消します。
種は水底の泥の中で冬を越し,春に芽吹きます。

・茎は泥の中にあった前年の実から芽を出し
前年の実から芽を出すということは,実がなる前に全部刈り取ってしまえば,翌年は生えてこないようですが,いくらかは翌々年とか3年後とかに発芽する実があるので,すぐに根絶できるという訳ではないようです。

・(茎は)細長く水の浅い深いに従って長短があり
マコモやヨシなどが生えない深い所からでも芽を出すことができるそうですが,それでも水深2m以下の浅い池にしか生えません。

・基部は泥の中に根を下し,上部は水面に達し,先端に多数の葉が集って付き,水面に浮かび,多数集って広く水面をおおう
熟して水底に落ちた実から,翌年春に芽が出て,水上をめざして茎が伸び,水面に達するとロゼット状に葉をひろげ,四方に茎を伸ばして浮葉を連鎖させて,水面を広くおおう,ということのようです。

・節には水中根がある
池の底に根を張っていますが,長い茎の節々に水中根を発達させて,水中の栄養分を吸収しています。
このことが水質浄化に役立つ一面もあるようです。

・葉は横の直径6cm位,ひし形状三角形できょ歯があるが,下部は全縁,表面は光沢,裏面には隆起脈があり毛がはえ
「菱形」という語は,ヒシの葉型から出たとする説と,実の形から出たとする説があります。
ほとんどの葉に虫食い穴がありました。
引き上げた浮葉には虫がついておらず,何が食害していたのかわかりません。
ネットで検索してみると,ヒシの葉はジュンサイハムシがよく食害するそうなので,それかもしれません。

・葉柄にはふくらんだ部分があってカエルのもものようである
[写真6]は,葉柄のふくらんだ部分を切断したところ。
内部はスポンジ状になっていて,「浮き」の役割をしています。
発生当初は葉柄は膨らんでいませんが,成長するにつれて葉柄が膨らんできます。[写真7]
大きくなった浮葉をささえるためだろうと思います。

・夏に葉間に白色の柄のある花を開く。がく片4個,花弁4個,雄しべ4本,花柱1本。花の中心にへりに歯のある黄色い花盤があり,蜜を出す。子房は半下位。
長い柄があるのは,空中に花を保持し,水をかぶらないようにするためでしょうか。[写真8]
[写真9]は花を縦に切ったところ。
柱頭がぼんぼりのように大きく,赤い色をしているのが印象的です。

・両側にとげのある核果を結び,中に多肉子葉の種子が1個ある。
引き上げた浮葉には,開いている花が1個と,花が散った後のものが4個ついています。
花後のものはそれぞれ子房の成長段階が異なりました。[写真10]
花は一度に開かずに,時間をかけて順次開花していったようです。
[写真11]を見ると,子房が肥大してゆくとともに,4個ある萼のうち2個は脱落し,残りの2個が棘へと変化していったことがわかります。
一番大きなものを半分に切ってみると(果皮はまだ柔らかくカミソリで切ることができました),中には既に肥大した子葉がたっぷりと詰まっていました。[写真12]