疏水脇に奇妙なものが落ちていました。[写真1]
角を生やした,呪術的な人面のような形をしています。
あたりを捜すと,全部で3個ありました。[写真3]

一見,素焼きの人工物にも見えるのですが,茎が付いているものもあるので,これは自然物ですね。[写真2]
それにしても奇妙な形をしています。

ひょっとしたら,棘のあるこの形は,ヒシの実?
しかし,今までこの辺りでヒシを見かけたことがありません。
家に持って帰り,ネットで画像検索してみました。

やはりこれはヒシの実でした!
イボビシと呼ばれる,ヒシの変異種です。
『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,ヒシについて次のように書いてあります。

一年生草本,池や沼にはえ,茎は泥の中にあった前年の実から芽を出し,細長く水の浅い深いに従って長短があり,基部は泥の中に根を下し 上部は水面に達し,先端に多数の葉が集って付き,水面に浮かび,多数集って広く水面をおおう。節には水中根がある。葉は横の直径6cm位,ひし形状三角形できょ歯があるが,下部は全縁,表面は光沢,裏面には隆起脈があり毛がはえ,葉柄にはふくらんだ部分があってカエルのもものようである。夏に葉間に白色の柄のある花を開く。がく片4個,花弁4個,雄しべ4本,花柱1本。花の中心にへりに歯のある黄色い花盤があり,蜜を出す。子房は半下位。後に両側にとげのある核果を結び,中に多肉子葉の種子が1個ある。

夏に葉間に白色の柄のある花を開く」とあり,秋に結実します。
まだ今年の実は実っていないので,この実は前年のもののようです。

実が落ちていた付近の水面には,以前にホテイアオイが繁茂して,花を咲かせたことがあります。(→2009年10月6日
以来,この辺りに浮かんでいる水草はホテイアオイだと思い込んでいました。

しかし,水面に浮かぶ葉をよく見ると,「ひし形状三角形できょ歯」があります。[写真13]
ロゼット状の浮葉からは,水底に向かって長い茎が伸びています。[写真12]
この水草は,ホテイアオイではなく,ヒシだったのです。

2009年10月6日のホテイアオイについての記事を見返してみると,水面に浮かぶ葉の写真のうち,[写真4]と[写真6]はホテイアオイではなくヒシです。
以前からヒシはこの場所に定着していて,たまたまこの年には,ヒシを押しのけてホテイアオイが繁茂しただけようです。

当時撮った[写真14]には,ヒシの花が写っています。
現在はまだ葉柄はそんなに膨らんでいませんが,[写真14]を見ると葉柄が赤く色づき膨らんでいます。

ヒシの実の棘は,何のためにあるのでしょうか。
小林正明著『花からたねへ-種子散布を科学する-』(2007年)には,ヒシの実について次のように書いてありました。

果実のとげは鋭く,堅い。ヒシの大きな果実には,池の底で芽生えた芽が水面まで葉を出すだけの栄養分が詰まっている。ヒシは栄養分が多いので茎を長くのばすことができ,マコモやヨシなどが生えない深い所からでも芽を出すことができる。とげは流されないための”いかり”のはたらきをしているとされる。これにより,親が生育した場所より深すぎるところには移動しない。ヒシの根は植物体を水底に固定するはたらきが大きい。

ヒシの棘は,流されないための「いかり」の役割をしているとあります。
生物の棘は防御的な役割をしていることが多いのですが,「いかり」の役割とは変わっていますね。

3個の実を割ってみると,1個は稔実不良のしいなで,2個は成熟した種子がはいっていました。
ハート形をしたぶ厚い種子が,殻いっぱいに詰まっています。[写真6]
取り出した種子をナイフで半分に切ろうとしたら,硬くて砕けてしまいました。[写真8]

シイの実は,でん粉が豊富で食用になります。
小さい頃に,塩ゆでにしたものを食べた記憶があります。
(味は覚えていないのですが)

実のなる時期に,採取したいと思います。