歩道の手すりにとまっていたカメムシ。[写真1][写真2]
ネットで画像検索すると,意外に簡単に名前がわかりました。
外来種のキマダラカメムシです。
元々南方系のカメムシですが,近年,分布域が急速に拡大しているそうです。

23年前に発行された,全国農村教育協会『日本原色カメムシ図鑑』(1993年)には,キマダラカメムシについて次のように書いてありました。

 体長20-23mm。黒色に小さい黄色の紋を不規則に散布する。日本のキマダラカメムシは台湾や東南アジアのものよりむしろ中国産に近い。
 サクラやカキなど25種類の植物に幼・成虫が寄生する。長崎地方では,冬季に成虫が越冬のため家屋に集まってくる。スウェーデンの博物学者カルル・ペ-テル・ツュンベリー(1743-1828)が,1770年代に長崎の出島で採集し,1783年に新種として記載した後,約150年間再発見されなかったが,近年は長崎県,福岡県,佐賀県などのほか,五島列島の福江市まで分布が拡大している。本州,四国,沖縄本島,石垣島などで得られたものはおそらく台湾からの移入によると思われる。
〔分布〕九州,沖縄本島,石垣島;台湾,中国,東洋区。

それから19年後に発行された,全国農村教育協会『日本原色カメムシ図鑑 第3巻』(2012年)には,次のように書いてあります。

元来, 「南蛮渡来」の侵入種であるが,国内における分布をさらに広げつつあり,現在は滋賀県まで定着しているようである。2008年には東京都から,2011年には愛知県から記録された。地球温暖化に後押しされ,分布域は今後も拡大してゆくと予想される。
〔分布〕本州(東京都,愛知県,近畿・中国地方),九州,沖縄本島?,石垣島?,台湾,中国,東洋区。

分布域拡大には,流通や交通網の拡大など人為的な原因があるのでしょうが,浸入先で生き続けることができるということは,地球温暖化が背景にあるようです。

カメムシの体のつくりについて,少し詳しく見てみました。
全国農村教育協会『日本原色カメムシ図鑑』(1993年)には,カメムシの一般的な形態について,次のように書いてありました。

頭部の形状は様々であるが,おおむね体の前方に水平に位置し,その先端は中央の中葉と,その両側の側葉に分かれる。

・キマダラカメムシの側葉は中葉の先端を少し越えていて,中葉部分が凹んでいるように見えます。[写真5]は頭部の背側,[写真6]は腹側です。腹側から見ると,バルタン星人のような風貌ですね。

複眼は通常,よく発達し,多くは単眼をもつが,メタラカメムシなどのようにこれを欠くものもある。

・目立たないですが,よく見ると,複眼と複眼の間に小さな単眼が1対あります[写真5]。

すべての口器は口吻に集約され, 1本の細長い管となって頭部の下面に収められる。口吻の中にはさらに細い口針が通っているが,これは通常外部からは見えない。食肉性の種類では,一般に口吻が太短くなる。

・バッタなどの口器は複雑怪奇な構造をしていますが(→クビキリギスの口器),カメムシの口器はシンプルですね。キマダラカメムシの口吻は4節でした。[写真7]

触角は4節または5節であるが,サシガメ科のあるものでは,この一部がさらにいくつかの小節に分かれる。触角の節数は科を分ける重要な形質である。

・キマダラカメムシの触角は5節でした。[写真8]

胸部は前胸,中胸および後胸からなり,通常背面からは前胸背(前胸背板)と中胸背板の一部である三角形の小楯板のみが見え,後胸背板は翅の下に隠れる。

・[写真3][写真4]

両胸背の形状は科により様々で,その後側角(側角)が側方に突出したり,棘状となったものも多い。

・側角は側方にすこし張り出しています。[写真3]

前翅は中胸から生じ,基本的には基部が革質,先端部が膜質となっている。革質の部分はさらに内片と外片に分かれ,内側の狭い部分が爪状部,外側の広い部分が革質部である。

・[写真9]のように,カメムシの前翅は前半分だけが,甲虫のような固い鞘状になっています。半翅目という名前はここからきています。ところが半翅目にはセミやヨコバイも含まれていて,グループ全体の特徴をあらわしてはいません。半翅目は現在はカメムシ目と呼ばれていて,ストローのような口吻を持つことが共通の特徴になっています。

後翅は後胸から生じ,全体膜質である。カメムシ類では,翅の退化あるいは翅の多型(長翅と短翅)がしばしば認められ,とくにナガカメムシ科,ヒラタカメムシ科,サシガメ科などに多い。長翅型と短翅型では一見別の種に見えることもあるので注意を要する。

・キマダラカメムシは長翅です。[写真9]

胸部の下面が胸腹板で,それぞれ前,中,後に分かれる。多くの種類では,後胸腹板に臭いのもととなる液体を放出する臭腺の開孔と,それに続く蒸発域が存在する。

・[写真4]。キマダラカメムシも中脚のつけ根あたりに臭腺の開孔があります[写真10]。滑らかな光沢のある胸腹板のなかで,蒸発域の表面だけが皺状でつや消しになっています。何か特別な構造があるのかもしれません。

前胸,中胸および後胸にはそれぞれ前脚,中脚および後脚があり,各脚は基節,転節,腿節,脛節および跗節の各節と爪でできている。

・[写真4]。キマダラカメムシの跗節は3節でした[写真11]。

 腹部は10節からなり,第8~10節が生殖節となっている。腹面から見ると,第1腹節は通常後胸腹板の下に隠れて見えず,第2節以降が認められる。

・[写真12]。腹部をはずして,後胸腹板の下に隠れているという腹部第1節を捜してみました。[写真13]は,はずした腹部を背側から撮ったもの。もっとはっきりと第1節があるのかと思っていましたが,どこが第1節なのかよくわかりません。第2節の前に,かすかにあるものが第1節なのでしょうか。

各節の側線近くには1個ずつの気門が存在し,カメムシ型類では,気門の近くに比較的顕著な感覚毛がある。

・[写真14]。「比較的顕著な感覚毛」は見当たりません。

一般に第2~7腹節の側線に近い部分は,側線に並行する縫合線で区切られ,多少とも平たくなっている。この部分が結合板で,背面から見た場合,翅の側方に張り出し,種々の斑紋を有することが多い。科によっては結合板を欠くものもある。

・[写真3]。カメムシは名前のとおり,ずんぐりとした胸部と腹部がカメの甲羅を,尖った小さな頭部が甲羅から突き出した亀頭を思わせます。結合板もカメらしさを出していますね。裏返して腹側から見ると[写真4],張り出した結合板がカメの背甲後縁部そっくりです。

生殖節は雄と雌で外見がまったく異なるので,半翅類の雌雄の判別は容易である。生殖節の形態,とくに内部形態は種を分ける形質としてきわめて重要である。

・[写真12]。この個体は,生殖節の形態から♀です。

腹節の背面が腹背板で,通常翅の下に隠れているが,この中央部には臭腺の開孔の痕跡が1~3対認められる。これは背腺ともいわれ,幼虫の時期に機能していたものである。

・[写真13]は,翅と小盾板をはずした腹部を背側から見たもの。腹背板の中央部に,3対の臭腺開孔の痕跡らしきものがあります。