動物園の塀にクビキリギスがとまっていました。[写真1]
1週間前にも歩道にクビキリギスが死んでいました。[写真2]

クビキリギスは秋遅く羽化し成虫で越冬するので,温かくなりはじめたばかりの春先に,成虫の姿で出現します。
この観察日記でも,何度か記事にしています。
2012/3/15日2012/3/82011/10/132011/2/172009/11/8

日本直翅類学会編『バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑』 (2006年)には,クビキリギスの形態について次のように書いてありました。

体長♂♀共に27~34mm(翅端まで50~57mm) ;産卵器18mm前後
ほっそりした体形などにより,他属の種との識別は容易。オガサワラクビキリギスに似るが,翅端部が裁断状であることで識別される。緑型と褐色型のほか,まれに桃赤色や赤褐色の個体もあり,色彩多型が多い。色彩型の出現には地域的な変異がある。大顎は顕著な橙赤色で,「血吸いバッタ」 「ショウガ食い」 「クチベニ」などの俗称がある。

「大顎は顕著な橙赤色」をしていて,よく目立ちます。[写真3]
大顎はクワガタやカミキリムシのハサミとしてもなじみ深い器官ですが,クビキリギスはその周辺の口の構造が特に複雑に見えますね。
どの昆虫も基本的な構造は同じはずなのですが。

すこし,じっくりと口まわりを観察してみました。
口器を構成しているものは基本的には,上唇,大顎,小顎,下唇のはずです。
それらがどの部分に当るのか,あてはめてみたのが[写真4]です。

小顎からは小顎肢が,下唇からは下唇肢が出ていて,これらが肢のように動いているので,複雑に見えるのですね。
朝倉書店『昆虫学大事典』(2003年)によると,発生学的には,上唇は第1体節の付属肢,大顎は第4体節の付属肢,小顎は第5体節の付属肢,下唇は第6体節の付属肢だそうです。
昆虫の口はもともと肢なのです。
ヤブキリギスの口器が肢のように見えるのも,もともとが肢だったと思えば納得です。

[写真3][写真5]を見ると,複眼のなかの黒目がこちらをにらんでいるように見えます。
もちろん複眼に瞳などはなく,この黒く見える部分は「偽瞳孔」といわれているものです。

複眼はたくさんの小さな個眼がドーム状に集合し,あらゆる方向に視線を向けています。
逆に言うと,どの方向から見てもどれかの個眼と視線が合うわけで,目があった個眼の底が黒く見えるため,どこから見ても黒目がこちらを見ているように見えるというわけです。

昆虫は基本的には1対の複眼と,3個の単眼を持っていますが,キリギリスのなかまでは単眼が退化しているものもいるようです。
クビキリギスも,ふたつの複眼の間に白毫のような単眼がひとつあるのは確認できるのですが,あとふたつの単眼が見当たりません。
どこかにあるのか,それとも退化してしまっているのか,図鑑をみても単眼の数が書いてなくて分かりませんでした。