目の前の地面を,むこうの草むらを目がけて走るクモ。[写真2]
追っかけると,ピタリと動きを止めました。[写真1][写真3]
動かずに危険が去るのを待つ作戦のようです。
擬死とまではいきませんが,防御行動のひとつのようです。

しかし人には有効ではありませんね。
楽に捕まえることができました。

図鑑で調べると,このクモはハラクロコモリグモ(♂)でした。
八木沼健夫著『原色日本クモ類図鑑』(1986年)には,ハラクロコモリグモが属するコモリグモ科について,次のように書いてありました。

頭部は狭い。中窩は縦向き。上顎に外顆と牙堤歯がある。 8眼2列であるが,後眼列強く後曲するため3列に見える(従って前から第1・2・3列眼と称することがある)。後列眼は大きく,第1列の4眼は小さい。後側眼は後中眼より離れる。 ♂触肢の脛節に突起がない。歩脚転節に欠刻がある。歩脚に刺が多い。 3爪で上爪にわずかの歯を生じ,下爪は単歯か無歯。卵のうはやや扁平な球状で,糸器につけて運び,孵化した子グモを腹背に乗せて保護する。排個性であるが,幼時あるいは成時で網を張るものがある。旧称ドクグモ。毒性の弱いことは他のクモと変わりがないので, 1973年8月以降コモリグモと改称され正式の名となった。欧米諸国ではオオカミグモ Wolf spiderと称する。

・8眼2列であるが,後眼列強く後曲するため3列に見える。後列眼は大きく,第1列の4眼は小さい。後側眼は後中眼より離れる。
大きな単眼が4個,小さな単眼が4個あります。[写真7]
真正面から見ると,大きな後中眼が見ひらいた目に,小さな前中眼が鼻の穴に見えて,ゴリラの顔のようです。[写真5]

・♂触肢の脛節に突起がない
クモの♂♀の見分けは,触肢の先端がふくらんでいるかどうかで判定します。
ふらんでいれば♂,ふくらまずに歩脚と同じような形ならば♀です。
この個体は,触肢の先がふくらみ,複雑な構造をした生殖器官が見えるので,♂です。
[写真9]~[写真11]

・3爪で上爪にわずかの歯を生じ,下爪は単歯か無歯
歩脚の先端にある爪はとても小さいうえに,周囲に生えている毛に埋もれてしまい,デジカメで撮るのはかなり困難です。
何とか撮れたのが[写真12]です。
上爪に歯がついているのが分かります。

クモは爪の数によって,1対の上爪のみを持つもの(2爪類)と,さらに下爪を持つもの(3爪類)に分けられます。
網の巣を張るクモはすべて3爪類で,徘徊性のクモの多くは2爪類です。
コモリグモは徘徊性なのに3爪なのは,「排個性であるが,幼時あるいは成時で網を張るものがある」と関係があるようです。

・孵化した子グモを腹背に乗せて保護する
この習性のため,「子守り」グモの名がつけられました。
以前は「ドクグモ」と呼ばれていましたが,「1973年8月以降コモリグモと改称され正式の名となった」。