ナンキンハゼの特徴的な葉の間から,穂状の花が顔をのぞかせていました。[写真1]
この場所は,3年前の落石予防工事の際に,生えていた草木がすべて伐採されていた場所です。(→2015年3月17日
今では,ナンキンハゼが10数本生えています。
高いものは2mくらいになっていますが,花を咲かせたのは今年が初めてです。
荒地にいち早く勢力をひろげる様子は,先駆植物的な増え方です。

ナンキンハゼの花について調べてみたところ,開花のタイプが2つあり,すこしややこしいです。
ナンキンハゼは雌雄異花同株,花には雄花と雌花があり,同じ株に両方が咲きます。
雄花と雌花が咲く順序により,雌花先熟株と雄花先熟株の2タイプがあります。
福岡教育大学「福原のページ」によると,

雌性先熟株は,総状花序の下の方に数個の雌花がつき,その上にたくさんの雄花がつきます。先に雌花が咲き,雌花が咲き終わった頃に,雄花が満開となります。

雄性先熟株は,穂のようにたくさんついた雄花が先に咲き始めます。雄花が咲き終わって穂から落ちたころになって,穂の付け根のところの小さな穂が伸びます。小さな穂には,付け根の方に数個の雌花,先の方に多数の雄花がついていて,まず雌花が咲き,その後雄花が咲きます。

それぞれの変化を模式化してみました。
ナンキンハゼ開花の2タイプ

岡崎の府立図書館に,ナンキンハゼが2本並んでいます。
右側が雌性先熟株,左側が雄性先熟株のようです。
7月10日に見た,右側の木の[写真2]を模式図に当てはめてみると,雌性先熟株の②雄性期のものに該当します。
左側の木の[写真3]は,雄性先熟株の③雌性期のもののようです。
左側の木の下には脱落した雄花穂がたくさん落ちていましたが,右側の木の下には落ちていませんでした。

両方の木とも,下の方の枝についた花序は雄花だけがついていて,雌花がありませんでした。[写真4]
日照条件などにより,雌花のない雄性花序がつくことも多いそうです。

7月11日に九条山で見た[写真5]は雄性先熟株の①第1雄性期,7月19日に岡崎で見た[写真6]は雄性先熟株の④第2雄性期のもののようです。

平凡社『日本の野生植物』(2016年)には,ナンキンハゼの花について次のように書いてありました。

花期は7月。花は枝先の長さ6~18cmになる総状花序につき,苞は卵形で,大きな腺体が基部の左右にある。花序の上部には多数の雄花を,下部には1~3個の雌花をつけるが,雌花を欠くこともある。雄花には長さ1.5~3mmの関節のある柄があり,萼は皿状で3浅裂し,雄蕊は2本あり,花糸は短い。雌花には長さ2.5~3mmの柄があり,萼は3裂し,裂片は卵形で,長さ約1mm,子房は3室からなり,球形で,長さ約2mm,花柱は3個で基部は合着し(合着部の長さは約3.5mm),先は開出する。蒴果は扁球形で,長さ約1cm,幅約1.5cmで,先が円形の3稜があり,花柱が宿存する。種子は広卵形,長さ7mmほどで,中軸につき,白色蟻質の仮種皮が全体を包む。中国(山東省~雲南省)原産で,本州から琉球で栽培されるが,九州の一部では野生化していて,かつては自生するとも考えられたことがある。栽培の目的は蝋の採取,家具,器具などの用材用であったが,現在は街路樹としても利用されている。

・(花序には)大きな腺体が基部の左右にある
 →[写真11]
花序の上部には多数の雄花を,下部には1~3個の雌花をつける
 →[写真2]
雄花には長さ1.5~3mmの関節のある柄があり,萼は皿状で3浅裂し,雄蕊は2本あり,花糸は短い
 →[写真17]
雌花には長さ2.5~3mmの柄があり,萼は3裂し,裂片は卵形で,長さ約1mm
 →[写真12]
子房は3室からなり
 →[写真18]
花柱は3個で基部は合着
 →[写真13]

九州の一部では野生化し」とありますが,ネットで調べたところ,近年,西日本各地でナンキンハゼが急速に分布を拡大し,新たな侵略的外来植物として問題化しています。
この分布拡大には,各地でシカが増加していることと,シカはナンキンハゼを食べないことが関係しています。
従来の環境であれば,ナンキンハゼは在来植物との競合に負けてしまうのですが,シカが在来植物を食害することにより競争相手がいなくなり,シカの忌避植物であるナンキンハゼだけが生長するという関係ができているようです。

この場所も,シカの通り道になっているところです。(→2016年6月1日
シカがいなければ,ナンキンハゼは生えてこなかったのかもしれません。
今まで見かけなかったナンキンハゼが生えてきて,単純に喜んでいたのですが,その背景にシカの増加問題が絡んでいるとは思いもよりませんでした。