ナンキンハゼの果皮が割れて,白い種が顔をのぞかせていました。[写真1]
白いものは,種子の周りを覆う蝋物質(仮種皮)です。[写真8]
蝋物質を取り除いた種皮は黒色をしています。[写真7]
裂開直後の仮種皮は塗りたての漆喰のように柔らかいですが,日数が経つと固くなり,種子の周りを白くコーティングしたようになります。

種子自体の表面は意外に厚く硬いです。
ナイフを当ててこつんと適度な力で叩くと,種皮が割れて,中から白い胚乳が出てきます。
裂開したばかりの種子の胚乳は俵型をしていますが[写真9],裂開後日数の経った種子の胚乳は渋柿のようにしぼんでいます[写真10]。

中国原産で,中国では昔からナンキンハゼの蝋を採取しロウソクを作っていました。
日本にも蝋をとることを目的に江戸時代に移入されました。
「ハゼ」の名は,同じように蝋を採取していたハゼノキから来ています。
ウルシ科のハゼノキとは全く別の種類で,ハゼノキのようにかぶれることはありません。

『朝日百科 植物の世界』(1997年)には,次のように書いてありました。

中国・明代の産業技術書「天工開物」(宋応星著,1637年)を見ると,「燈火用には,桕の仁の中の水油が上等」という記述があり,桕すなわちナンキンハゼが中国では古くから上質な油脂源植物として評価されていたことがわかる。ナンキンハゼの種子の油は,有毒であるが,中国では現在でも,油脂源・採蝋植物として重要視して,蝋燭や石鹸に加工している。日本には江戸時代に渡来し,本州から琉球で,蝋の採取,家具用材などのために栽培されていた。

中国原産で,日本でも蝋をとるために栽培されたことから,同じく採蝋植物のハゼノキ(ウルシ科)にちなんで和名がつけられた。

ロウソクを作るときには,種子周りの蝋物質だけでなく,種の中身も一緒に砕いて油を搾るようです。
仮種皮と胚乳,どちらも同じように燃えるのか,別々に火をつけて試してみました。
[写真11]は仮種皮,[写真12]は胚乳に火をつけたところ。
どちらも,よく燃えます。
こんなに脂肪分が多いと人が食べてもおいしそうですが,種子には毒があるとか。

鳥は実を丸呑みし,硬い殻で守られた種子をそのまま排泄します。
京都市野生鳥獣救護センターのブログに次のように書いてありました。

2015年02月15日 (日)
鳥の種まき
この冬に入り,2羽目のトラツグミが持ち込まれました。主にミミズや昆虫を食べますが,今の時期はミミズ類のほか,冬場の貴重なカロリー源である,木の実などを食べています。救護されてきた翌日,糞と一緒にこんなものがでてきました。調べたところ,恐らくナンキンハゼの種子ではないかと考えられました。もともとは白い皮に包まれている種子ですが胃の中で消化され,この黒い種子がでてきたのでしょう。

植物が種子を散布する方法の一つとして,動物にいったん食べさせ,種子が不消化排出されることにより種子散布する方法を被食散布といいます。
運んでくれる動物には,果実などが報酬として与えられます。
小林正明著『花からたねへ-種子散布を科学する-』(2007年)には,次のように書いてありました。

果実は動物に食べられ果肉は消化されるが,種子は普通消化されない。このようにして散布される種子の種類は多い。この方法を周食散布または果肉報酬といい,ほ乳類や鳥に依存することが多い。これらの動物は恒温性なので,体温を保つためにエネルギーを多く必要とする。そのために多食するので散布してもらいやすい。また鳥は歯がなくて餌を飲み込むので種子が傷つかない。また空を飛ぶために身を軽くする必要があり,数分から数十分で排出するという特性がある。早く排出すると親植物からの移動距離が極端に遠くならず,似ている環境に散布される可能性が高い。

ナンキンハゼは鳥に種子を運んでもらいたくておいしい脂肪層を蓄えたのですが,あまりに良質な油だったため,鳥によって散布されるにとどまらず,人によって海を越えて散布されるという,予想外の結果を産んだようです。