キンモクセイの花から,よい香りが漂っています。
普段は気にもとめないありふれた生垣ですが,この時期だけはつい足がとまります。

木犀の香や年々のきのふけふ(西島麦南)

よく見ると,星形をしたかわいらしい花です。
花後は,地面にオレンジ色をした無数の星形が散らばっています。
いつも思うのですが,この花殻に香りが残っていれば。
天然の芳香剤としてどんなによいかと思うのですが,残念ながら何も匂いません。

花には2本の雄しべがあり,中央に雌しべの名残らしき突起があります。
モクセイのなかまは雌雄異株。
雄花だけをつける雄株と,雌花だけをつける雌株があります。
しかしキンモクセイには雄株しか存在しないそうです。
種がとれないので挿し木で増やされています。

ということは,日本中に植えられているキンモクセイは,同一の株から生じたクローンなのかもしれません。
クローン植物というと特殊な感じがしますが,園芸や農業では古くから挿し木や取り木を利用して,性質のよい品種を増やす方法は普通に行われています。
日本中全てのキンモクセイが同じ株から生じたクローンだと思うと,その数量に圧倒されますが,意外にありうる話ですね。

『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,キンモクセイについて次のように書いてありました。

中国原産の常緑の小高木であり,庭樹として植えられている。高さは4mに達し,幹は太く,よく分枝し,葉を密につける。葉は柄があり対生,広皮針形または長楕円形,ふちにはきょ歯があるが,時に全縁のものもある。葉質は革質で表面は緑色,裏面はいくぶん黄色味をおびる。晩秋,葉腋に花柄のある多数の橙黄色の小さい花を束生し,強い芳香を放つ。がくは緑色小形で4裂する。花冠は深く4裂し,裂片は倒卵形で円頭,表面は凹み,質は厚い。雄しべは2本,雌しべは1本。雌雄異株で,わが国にあるものは雄樹であるため,子房は縮小していて結実しない。全体ギンモクセイに似るが,花の色が橙黄色であり,葉はやや狭長できょ歯が少ないことにより識別できる。〔漢名〕丹桂。

・幹は太く,よく分枝し,葉を密につける
葉を密につけることから,生垣として利用されています。

・葉は柄があり対生,広皮針形または長楕円形,ふちにはきょ歯があるが,時に全縁のものもある。葉質は革質で表面は緑色,裏面はいくぶん黄色味をおびる
[写真10]

・晩秋,葉腋に花柄のある多数の橙黄色の小さい花を束生し,強い芳香を放つ。
[写真2]
開花時期は「晩秋」とありますが,このブログでキンモクセイの花について書いているのを見直してみると,2002年10月6日,2003年10月3日,2004年10月15日,2006年10月10日,2016年10月19日と,いずれも10月上旬です。

・がくは緑色小形で4裂する
[写真7]

・花冠は深く4裂し,裂片は倒卵形で円頭,表面は凹み,質は厚い
[写真5]

・雄しべは2本,雌しべは1本。雌雄異株で,わが国にあるものは雄樹であるため,子房は縮小していて結実しない。
[写真5]
[写真6]は,花を切断したもの。
花糸が無く(無いように見えます),葯は花弁にくっ付いています。
[写真8]は,落ちた花殻。
葯が花弁にくっ付いたままです。
[写真9]は,花弁が落ちた後の花柄先端。

・〔漢名〕丹桂
「中国原産」で漢名は「丹桂」とありますが,日本のキンモクセイは中国の丹桂とは別の種で,ウスギモクセイから派生したものという説もあります。
『朝日百科 植物の世界』(1997年)には,次のように書いてありました。

ギンモクセイに比べて,葉が大型だがやや薄く,幅が狭いものがキンモクセイ,ウスギモクセイ,シロモクセイの3品種である。橙黄色の花をつけるキンモクセイvar.durantiacus f.aurantiacus は,花の香りによって存在がわかるほど香りが強く,栽培されているのはほとんど雄株である。花が淡黄色のウスギモクセイ f.thunbergii は熊本・鹿児島両県の照葉樹林内に生え,しばしば栽培されている。白色の花をつけるシロモクセイ f.leucantbus は,雌株が栽培され,以前はギンモクセイと混同されていた。“ギンモクセイ(シロモクセイを含む)”とキンモクセイはこれまで,どちらも中国からきたとされていた。だが,最近の見解では,シロモクセイとキンモクセイは,日本でウスギモクセイから見いだされ,栽培化されたと考えられている。

ネットの中国語サイトで「丹桂」を検索すると,丹桂の花の写真がたくさん出てきます。
確かに,いずれもキンモクセイの花によく似ています。
キンモクセイと丹桂が同一の種かどうかは,DNA分析をしないと決着がつかないと思いますが,今のところは下記の見解が妥当なような気がします。

京都市都市緑化協会「みどりの相談所」回答。

「キンモクセイ」は雌雄異株の樹木で、中国から渡来したものです。また、花とその香りを鑑賞する花木で、果実の利用はありません。さらに挿し木繁殖が簡単です。これらを踏まえると、外国から日本へ移入する場合、最も目的にかなうのは、花が沢山咲く個体を選ぶことです。そのため、雄株が選ばれたのではないでしょうか。そして国内で次々と挿し木繁殖した結果、日本の「キンモクセイ」は雄株ばかりになったのだと考えられます。