サザンカの葉裏に,小さなクモが隠れていました。
全身が透きとおるような淡緑色をしています。[写真1][写真2]
ハナグモかな?と名前を調べてみると,同じカニグモ科のワカバグモでした。

若葉の頃に,若葉の上にいる,若葉色のクモだからワカバグモ。
ハナグモと同じく,分かりやすい名前ですね。
それだけ昔から親しまれているクモだということでしょうか。

以前にも,ワカバグモについて書いていました。
2005年11月16日[写真15]
2006年11月30日[写真16]
どちらも11月に紅(黄)葉した葉の上にいたものです。
葉が緑色の時には,気づきにくいようです。

ワカバグモが属するカニグモ科について,八木沼健夫著『原色日本クモ類図鑑』(1986年)には次のように書いてありました。

歩脚前脚は後脚に比べて太く長く横行性でカニ状,いっぱんに腹部は短く後方で幅が広い。歩脚毛束も末端毛束もない。少数の牙堤歯をもつものと欠くものがある。8眼2列で,ともに後曲で同大ではない。前中眼以外は反射層があるので白色に見える。側眼は眼丘上にある。前中眼は側眼に近く,後列眼は等距離または中眼間がやや短い。

・歩脚前脚は後脚に比べて太く長く横行性でカニ状
クモには歩脚が4対あり,前から第1脚・第2脚・第3脚・第4脚。[写真3]
第1脚~第2脚を前脚,第3脚~第4脚を後脚ともいうようです。
[写真3]を見ると,前脚は後脚に比べて太く長くて,横に張り出し,名前のとおりまるでカニのようです。
大きく見えますが,脚を含まない体長は8mmほどです。

・いっぱんに腹部は短く後方で幅が広い
他のカニグモの仲間と異なり,ワカバグモの腹部は長くて円筒状です。

・歩脚毛束も末端毛束もない
いっぱんに徘徊性のクモには滑り止めのための末端毛束があります。
[写真5]を見ると,歩脚毛束はありませんが,末端毛束はあるように見えます。
歩脚先端にある毛束のようなものは「末端毛束」ではないのでしょうか。
末端毛束の役割について,平凡社『動物大百科』(1987年)に次のように書いてありました。

<排個性のクモ>の多くは歩脚の先端に,爪のほかにブラシのような毛の束(たば)(末端毛束(まったんもうそく)という)をそなえている。この毛束をもっているクモは,つるつるの葉の斜面でも垂直に登ったり,滑らずに降りたりできるほか,たとえば葉の裏側などがそのクモにとってはたいへん重要な生活の場となる。顕微鏡で見ると,これらの毛の1本1本がさらにこまかく枝分かれしているのがわかる。

・少数の牙堤歯をもつものと欠くものがある
牙堤歯の有無については確認できませんでした。
コガネグモの牙堤歯について→2018年8月3日

・8眼2列で,ともに後曲で同大ではない。前中眼以外は反射層があるので白色に見える。側眼は眼丘上にある。前中眼は側眼に近く,後列眼は等距離または中眼間がやや短い。
[写真6]を見ると,8個の眼がまるでパノラマカメラのように,あらゆる方向に向いています。

ワカバグモ属については,『原色日本クモ類図鑑』に次のように書いてありました。

ワカバグモ属
背甲は中凸で額は中眼域より長くほぼ垂直。前眼列は強く後曲,後眼列は弱く後曲。中域眼は,長さ>幅。前辺>後辺。放射溝は明瞭。腹部は長く円筒状。

・額は中眼域より長くほぼ垂直
額(ひたい)とは「眼域と頭胸部前縁の間」をいいます。
[写真7]を見ると,額と中眼域はほぼ同じ長さ。
[写真8]を見ると,額はほぼ垂直になっています。

・前眼列は強く後曲,後眼列は弱く後曲。中域眼は,長さ>幅。前辺>後辺。
[写真6]

・放射溝は明瞭
[写真9]

・腹部は長く円筒状
[写真10]

ワカバグモについては,次のように書いてありました。

1.ワカバグモ Oxytate striatipes L.KOCH
 体長♀12~13mm。全体淡緑色の美しいクモ。5~6月の若草の頃,葉上に出現し徘徊する。前脚には対をなす多数の刺があり,腹部も後半に黒色の毛を生じる。成熟すると腹部は桃色を帯びるものあり。♂の頭胸部前方・歩脚の基部は褐色を呈する。

・体長♀12~13mm
この個体は,触肢が膨らんでいるので♂です。
♂の方が♀より体が小さく,この個体は体長8mmでした。

・前脚には対をなす多数の刺があり,腹部も後半に黒色の毛を生じる。
[写真8]を見ると,前脚にたくさんの刺があり,腹部には後半部に目立つ毛が生えています。

・成熟すると腹部は桃色を帯びるものあり
[写真11]を見ても,本個体の腹部は桃色を帯びていません。

・♂の頭胸部前方・歩脚の基部は褐色を呈する
本個体は♂ですが,頭胸部前方・歩脚の基部は褐色を呈していません。
成熟した♂のみの特徴のようです。
[写真13][写真14]の触肢の状態を見ても複雑な構造はできておらず,本個体は未成熟と思われます。