サツキが植えられていた植え込みに,草が生い茂り,白い小さな花が咲いていました。[写真1]
タネツケバナです。
同じなかまのオオバタネツケバナは南禅寺の水路でよく見かけるのですが[写真18],タネツケバナはあまり見かけません。(オオバタネツケバナについて→2010年4月16日
道路わきに生えている草は外来種が多いという先入観もあり,最初これはミチタネツケバナだろうと思っていました。
ミチタネツケバナは乾燥した道端などの裸地を好む外来種です。
しかし,調べてみると,意外なことに在来種のタネツケバナでした。

平凡社『改訂新版 日本の野生植物』(2016年)でタネツケバナ属検索表をたどってみました。

A.茎葉はすべて有柄で,葉柄の基部は耳状とならない。

[写真7]のように,茎葉には葉柄があり,葉柄の基部は茎を抱いていません。
次に進むと↓

B.一年草,越年草か根茎のない多年草(一部の種では短い根茎があることもある)。花弁は1.5~7mm,ときに退化する。

問題ないので,次に進みます。

C.乾性地に生える越年草まれに多年草で根出葉はロゼット状をなし,茎葉は根出葉よりも小さい。花弁は長さ2.5~4mm。

C.湿任地,まれに乾性地に生える一年草,越年草か多年草で,根出葉はふつうロゼット状にならず,茎葉は根出葉よりも大きいことが多い。

上の選択肢を選べばミチタネツケバナに,下の選択肢を選ぶとタネツケバナにたどり着きます。
・根出葉がロゼット状かどうか
根出葉というのは,根から直接生えているように見える葉のことをいいます。
本種の根出葉は,[写真6]の一番下に生えている紫色をしている葉ではないかと思うのですが,ほとんど枯れかかっていて,ロゼット状をなしているとは言えません。
・茎葉が根出葉よりも小さいか大きいか
[写真8]のように,本種の茎葉は根生葉より小さいとは言えません。
したがって下の選択肢を選び,次に進みます。

D.種子に翼がある。

D.種子に翼はない。

[写真16]のように,種子に翼はありません。
次に進みます。

E.一年草または越年草,ときに葉腋から腋芽を出して多年草状となる。茎は全体的に暗紫色をおびることが多い。葉の頂小葉は側小葉とほぼ同じ大きさか,わずかに大きい。花弁は長さ3~4mm。

E.多年草。茎に紫色をおびた部分はないか,まれに基部のみ紫色をおびる。葉の頂小葉は側小葉よりも明らかに大きい。花弁は長さ(3.5~)4~7mm。

・茎が暗紫色を帯びるかどうか
[写真5][写真6]のように,茎の下部が暗紫色を帯びています。
・葉の頂小葉は側小葉よりも明らかに大きいかどうか
[写真8]のように,頂小葉は側小葉よりもわずかに大きいか,同じ大きさです。
したがって,上の選択肢を選ぶと,タネツケバナにたどり着きます。

同書のタネツケバナの解説には,次のように書いてありました。

水田や畑,道ばたなどに多い越年草,ときに一年草。茎は下部から枝を分け,多少毛があり,高さ10~30cmになる。葉は羽状複葉で,全長は2.5~9cm。根出葉はロゼット状になって茎葉よりも大きいが,一年草の生活型のものでは小さく少ない。小葉は1~8対あり,長楕円形~円形,欠刻状の鋸歯があるか,茎葉ではときに全縁に近く,無柄か有柄,頂小葉はやや大きい。花期は3~5月。萼片は長楕円状卵形,紫色をおぴ,長さ約2mm。花弁は白色,倒卵形で長さ3~4mm。長角果は線形,長さ1~2cm,幅は約1mm,無毛で,直立する。種子は1列,広卵形で,長さ約1mm。

ミチタネツケバナについては,次のように書いてありました。

1992年に日本新産が報告されたヨーロッパ原産の帰化植物で,現在では小笠原を除き全国的に見られるようになってきている。根出葉が花時にもロゼット状に残り,茎はほとんど無毛で直立し,茎葉が少なく,その小葉は線形で根出葉の小葉とは明らかに形が異なり,花が小さく雄蕊は4個で,果柄は直立する。染色体数2n~16(2倍体)。和名の通り乾いた道ばたの裸地を好み,水没環境では発芽できないために水湿地には見られない。

・タネツケバナの茎には「多少毛があり」,ミチタネツケバナの茎は「ほとんど無毛」。
[写真12]の茎には,毛があります。
・タネツケバナ属の雄しべは6個で,まれに4個です。タネツケバナの雄しべも6個ですが,ミチタネツケバナはまれな方の「雄蕊は4個」です。
[写真2]の花には,雄しべが6個あります。