道脇の青々と茂った葉の中に,小さな白い花がぽつりぽつりと咲いていました。[写真1]
ウシハコベです。
昨年の5月にも,花を咲かせていたはずです。(→2019年5月7日
初夏の花[写真3]と比べると,今の時期の花[写真2]は何となく花弁の開き具合が中途半端です。

ウシハコベについて,『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,次のように書いてありました。

 どこにでも普通にみられる越年生または多年生草本で,全体の様子はハコベに似ているがはるかに大形である。根はひげ状。茎は長さ50cmぐらい,下部は横にはい上部は斜めに立ち上っていて,円柱形,紫色をおび,先の方はいくらか腺毛があり,茎の中に一すじの維管束があって糸のようである。葉は対生で,卵形,または広卵形,先は尖り,葉脈は上面で凹み,下部の葉は長い柄があり,上部の葉は無柄,基部は心臓形で茎を抱いている。初夏,葉腋に小さな白い花をつける。花柄やがく片には腺毛があり,花柄は花が終ると次第に下に向く。がく片は5個,皮針状長楕円形で先はやや鋭形である。花弁は5個,がく片より長いか,あるいは短くて,基部まで深く2裂している。おしべは10個。卵円形の子房の頂に5個の花柱がある。さく巣は卵形で宿存がくより長く,上部は五つに裂け,各片の先はさらに二つに尖裂している。〔日本名〕牛ハコベ。普通のハコべと比べると草のようすが大形であるから牛といったものである。

・全体の様子はハコベに似ているがはるかに大形である
[写真16]はハコベ。
ハコベの背丈が10~30cmなのに対して,ウシハコベの背丈は20~60cmあります。

・茎は長さ50cmぐらい,下部は横にはい上部は斜めに立ち上っていて,円柱形,紫色をおび,先の方はいくらか腺毛があり
[写真7]は茎の断面。円柱形をしている。
[写真6]は茎の様子。紫色をしている。

・茎の中に一すじの維管束があって糸のようである
茎を折り取ろうとすると,外側は軟弱ですが,中に糸のような芯が残ります。[写真8]
これは維管束で,ハコベラのなかまに共通する特徴です。
ハコベラは漢名で「繁縷(はんろう)」といい,「縷(る)」は糸を意味します。
「一縷(いちる)の望み」の「縷(る)」ですね。

・葉は対生で,卵形,または広卵形,先は尖り,葉脈は上面で凹み
[写真9]は上面,[写真10]は下面。

・下部の葉は長い柄があり,上部の葉は無柄,基部は心臓形で茎を抱いている
[写真6]は葉柄の基部。

・初夏,葉腋に小さな白い花をつける。
初夏に花をつけることになっていますが,必ずしも初夏だけに咲くわけではないようです。

・花柄やがく片には腺毛があり,花柄は花が終ると次第に下に向く。
[写真12]を見ると,花柄やがく片に生えた毛の先端が球形に膨らんでいて,いかにも腺毛ぽいですね。

・がく片は5個,皮針状長楕円形で先はやや鋭形である。花弁は5個,がく片より長いか,あるいは短くて,基部まで深く2裂している。おしべは10個。卵円形の子房の頂に5個の花柱がある。
[写真4]
花柱が5個あることがウシハコベの大きな特徴です。
他のハコベのなかまは,花柱が3個です。
花弁は「基部まで深く2裂」しているため,一見すると10枚あるように見えます。

・〔日本名〕牛ハコベ。普通のハコべと比べると草のようすが大形であるから牛といったものである。
植物の名前では,大形のものには「オニ」をつけることが多くて,「牛」をつけることはあまり多くないように思います。
でも牛ハコベという名前は,のどかな田園風景が想い浮かんでいいですね。