街路樹のサクラの根元に,先の尖った棒状のキノコが出ていました。[写真1]
上部が濃い茶色で,全体に赤みがあります。
初めて見るキノコです。
テングタケのなかまのようなはっきりとしたツボが残っています。[写真2]
これから傘を開くのだろうと思っていましたが,翌日見るともうしおれていました。[写真4]
周りには5,6本散生していて,白い卵のような幼菌もあります。[写真5]~[写真7]

図鑑で名前を調べてみると,旧腹菌類のツマミタケでした。
腹菌類とは,殻皮の中(腹の中)で胞子が完熟するまで保たれている,という特徴をもつ一群のキノコをいいます。
従来は腹菌亜綱として扱われていました。
しかし,DNA分析に基づく現在の分類体系では,腹菌類というグループはなくなっています。
山渓カラー名鑑『増補改訂新版 日本のキノコ』(2011年)には次のように書いてありました。

新分類体系では腹菌類というグループは完全に解体され存在しない。腹菌類は子実層が成熟するまで露出しないという特徴があるが,そのような「腹菌型」への進化は,ハラタケ目・イグチ目・ベニタケ目など,担子菌類のほとんどの目で独自に起こったことが分かってきた。

現在,ツマミタケはハラタケ綱スッポンタケ目アカカゴタケ科ツマミタケ属に分類されています。

同書には,ツマミタケについて次のように書いてありました。

ツマミタケ属。幼菌は卵形~長卵形で白色,表面は平滑,裂開して単一托である柄部と腕をあらわす。腕は3~7本,頂部で互いに結合して筆の先のようになり,内側に横じわを生じ紅色~赤褐色。柄部は腕より長く,腕と同数の稜角をもった角柱,時に円柱となり中空,稜角面は両端が突出する。グレバは腕の内側に粘液化してつき暗色,悪臭を放つ。夏,庭園,路傍,林内地上に発生する。

・幼菌は卵形~長卵形で白色,表面は平滑
綺麗な卵形ではなく,2個が合体したようないびつな形をしたものもあります。[写真16]
そうしたものも切ってみると,中身は一つでした。[写真17]
内部は透明なゼラチン質に満たされています。
ゼラチン質は割と固めで,切り分けるとまるでキノコのテリーヌといった感じです。[写真20]
悪臭は全くありません。
どんな味なのか少し興味がありますね。
近縁のスッポンタケやキヌガアタケが食用にされることを思うと,まったく食べられないことはないと思うのですが。

・裂開して単一托である柄部と腕をあらわす

托とは「スッポンタケ目の場合は一部に粘液化したグレバを着け外部に露出する部分をいう。偽柔組織からなり,柄状や腕状を呈する。」
1本の柄の先に数本の腕(托枝)がついています。

・腕は3~7本,頂部で互いに結合して筆の先のようになり,内側に横じわを生じ紅色~赤褐色
暗緑色のグレバがあると腕の構造が分かりにくいですが,洗い流すと,柄から伸びた皺々の腕が先端でくっついているのがわかります。[写真11]

・柄部は腕より長く,腕と同数の稜角をもった角柱,時に円柱となり中空,稜角面は両端が突出する
柄を引っ張ると,袋からすっと抜けました。[写真9]
柄は根元に向かってしだいに細くなっています。
どうやって自立しているのだろうと思いますが,袋が支えているようです。
袋は半分土に埋まって固定され,袋の底に残ったゼラチン質が細い柄の根元を固めています。[写真15]
[写真13]は柄部を縦に切断したところ。
中空になっています。
柄そのものも多孔質のスポンジ状です。[写真14]
裂開してからの伸長速度が速いのは,このおかげかもしれません。

・グレバは腕の内側に粘液化してつき暗色,悪臭を放つ
スッポンタケをはじめ,腹菌類のグレバは悪臭を放つことで有名です。
ハエなどの虫を呼び寄せるために糞便の匂いがするのです。
暗緑色の色といい,匂いといい,まさにそれですね。
グレバとは,前書の用語解説によると

基本体ともいう。腹菌類,塊菌類及びマユハキタケの仲間などで使われる言葉で,外皮を除き,有性胞子形成組織を含む菌組織を総括的に示す。

要は,胞子を形成する部分ということのようです。
しかしグレバは外部に露出すると溶けてしまうので,外見的には暗緑色をした臭い粘液にすぎません。

ツマミタケの「ツマミ」とは,動詞「つまむ」の連用形が名詞化した「物をつまむこと」なのか,それとも物の名前(普通名詞)としての「つまみ」なのか,どちらでしょうか。
ネットによると,数本ある腕が頂点でつまんだように一つになっている[写真11]ことから,「つまみ」の名がついたとありました。
しかし,他のアカカゴタケ科の仲間はみな,カゴタケ,アンドンタケ,カニノツメ,サンコタケ,イカタケなどキノコの形状を物になぞらえて名づけられています。
ツマミタケも形が「つまみ」に似ているから,と考える方が自然なような気がします。