タネツケバナの種子として一度アップしたものです。水辺に生えていて,茎が暗紫色だったので,周辺のものと同じタネツケバナだろうと思っていたのですが,疑問のメールをいただきました。もう一度,現物を確認したところ,確かにタネツケバナではありません。茎に毛が生えていないのです。

コタネツケバナ(長角果)
コタネツケバナ(長角果)
コタネツケバナ(長角果)
コタネツケバナ(長角果)
コタネツケバナ(株・基部)
コタネツケバナ(株・基部)

ならば何なんでしょうか。茎が暗紫色で無毛な種類といえば,外来種のミチタネツケバナが該当します。しかし,生息環境が違います。ミチタネツケバナは乾性地に生えますが,本種が生えているのは湿性地(水路の石垣)です。雄しべの数も,ミチタネツケバナは4個ですが,本種は6個あります。

色々調べていると,コタネツケバナにたどり着きました。特徴的には合うのですが,コタネツケバナならば種子に翼があるはずです。1mmほどの小さな種子は肉眼で見ても翼があるように見えません。写真を拡大してみると,種子の外縁に薄っすらと膜状のものが見えます。これが翼ならばコタネツケバナで決まりなのですが。ネットの画像などではもっと立派な翼をつけている写真があり,断定してよいのか迷います。

コタネツケバナ(生育状況)
コタネツケバナ(生育状況)[ in南禅寺福地町 on2023/4/22 ]
コタネツケバナ(種子)
コタネツケバナ(種子)

平凡社『改訂新版 日本の野生植物4』(2016年)には,コタネツケバナについて次のように書いてありました。

 コタネツケバナ(コカイタネツケバナ) は本州(関東~近畿地方)の低地の湿った場所に生える越年草で,茎は株立ちとなり,無毛かときに基部にわずかに毛があり,葉の裂片が細く,花が小さく,果柄が短く,種子の縁に膜質の翼がある。花期は3月下旬~4月で,同所的に生育するタネツケバナよりも早い。従来,ヨーロッパの C.parviflora L.に当てられ,帰化植物とみなされてきたが,工藤ほか(<分類> 6(1) 41―49.2006)が明らかにしている通り別種である。河川の氾濫原に生じる型では花弁が退化して閉鎖花となる傾向があり,これに発見地の茨城県小貝川にちなんでコカイタネツケバナC.kokaiensis Yahara et Soejima の学名が用意されているが,正式に発表されていない。近畿地方では第2次大戦前から採集されており,帰化植物ではない可能性が高い。

コタネツケバナの特徴としてあげられているのは次のとおりです。
・低地の湿った場所に生える
・茎は株立ちとなり,無毛かときに基部にわずかに毛がある
・葉の裂片が細い
・花が小さい
・果柄が短い
・種子の縁に膜質の翼がある
・花期がタネツケバナよりも早い

全国農村教育協会『日本帰化植物写真図鑑』(2001年)には,コタネツケバナの特徴について次のように書いてありました。

茎は無毛,基部からよく分岐して高さ20cmほどになる。葉はダイコンの葉のように羽状に深裂し,下部のものでは裂片に鋸歯があり,ほぼ無毛で互生する。春に茎の頂に短い花序を出し,花弁の長さ2mmほどの白色の4弁花をややまばらに着ける。果実は長さ1.5cmほどの棒状,種子は長さ0.8mmほどで,縁に翼がある。1954年に奈良県での帰化が報告された。

順番に検討してみます。
・茎は無毛
茎は無毛です。

コタネツケバナ(茎)
コタネツケバナ(茎)

・基部からよく分岐して高さ20cmほどになる
基部からよく分岐していて,高さは20~30cmほどです。タネツケバナより小さい感じはしません。

コタネツケバナ(株・全体)
コタネツケバナ(株・全体)
コタネツケバナ(株・全体)
コタネツケバナ(株・全体)

・葉はダイコンの葉のように羽状に深裂し,下部のものでは裂片に鋸歯があり,ほぼ無毛で互生する
羽状に深裂していて葉の形は色々です。無毛で互生しています。

コタネツケバナ(葉)
コタネツケバナ(葉)
コタネツケバナ(葉)
コタネツケバナ(葉)
コタネツケバナ(葉)
コタネツケバナ(葉)
コタネツケバナ(葉)
コタネツケバナ(葉)

・春に茎の頂に短い花序を出し
タネツケバナはまだ花を咲かせていますが,本個体はすでにほとんど開花を終え,結実しています。

コタネツケバナ(茎・上部)
コタネツケバナ(茎・上部)

・花弁の長さ2mmほどの白色の4弁花をややまばらに着ける
花弁の長さは2mmほどの小さな花です。花は確かに小さいですが,株全体の感じはタネツケバナより大きく感じました。

コタネツケバナ(花)
コタネツケバナ(花)
コタネツケバナ(花)
コタネツケバナ(花)

・果実は長さ1.5cmほどの棒状
長角果は1.7cmほど,果柄は3~4mmです。

コタネツケバナ(長角果)
コタネツケバナ(長角果)

・種子は長さ0.8mmほどで,縁に翼がある
種子の長さは1.1mmほど。一見,翼があるように見えません。写真を拡大し,画質調整すると周縁に膜状のものが見えます。これが翼だと思うのですが。

コタネツケバナ(種子)
コタネツケバナ(種子)
コタネツケバナ(種子)
コタネツケバナ(種子)
コタネツケバナ(種子)
コタネツケバナ(種子)
コタネツケバナ(種子を水に浮かべたところ)
コタネツケバナ(種子を水に浮かべたところ)